内気な少年が吹奏楽部に入部することになり、仲間と共に成長していく姿を描く中沢けいの同名小説を映画化。ドキュメンタリック過ぎて大きな起伏が見えにくいし過程がすっ飛ばされているような編集に退屈さを感じてしまうが、元吹奏楽部としては吹奏楽部の日常のリアルさや成長が丁寧でこの映画を愛さずにはいられなくなってしまった。
まずどうしても主人公と主人公達の世代とシンパシーを感じてしまう部分が多い。僕も高校時代に主人公と同じように吹奏楽部のパーカッションパートに所属していたし、自分達の代の半分以上が初心者ばかりだった。しかもちょっと内気で地味な感じも主人公とそっくりだ。もうこれだけでも自分にとってかけがえのない映画になってしまうというものだ。そんな主人公達が過ごす日常もあの頃過ごした日々や想い出を思い出させてくれる。個人練やわいわいとなかよく練習し合う毎日、女子にうだつが上がらない掛け合い、ひとつの音楽を作る合奏、初心者と経験者とのギャップ、男女間の「あの二人お似合いよね~」みたいな冷やかしや淡い色恋沙汰、コンクールのメンバーに選ばれなかったときの疎外感と悲しさ、そんなコンクールメンバーの演奏を会場で聞いたときの感動と自分もこんな音楽を演奏できるようになろうと奮起する熱い気持ち、演奏後の達成感…あの時の感覚を思い出させてくれるこの映画はやはり自分としては大切な映画だ。
そんな主人公の成長もすごく共感するものがある。最初は地味で目立たないようにと意識している若干いじめられっ子の主人公が、だんだんバンドの屋台骨ともいえるティンパニを堂々と演奏している姿は彼の親御さんみたいな気持ちになる。その過程や機微の描き方も的確で素晴らしい。定期演奏会での演奏は主人公だけでなく他のメンバーの成長も見えて素晴らしい。実際にオーディションで選ばれた生徒達が1年間練習して臨んだ演奏はよくがんばったと拍手を送りたい。原作では普門館(野球部でいう甲子園みたいな場所)を目指す物語だったけど映画の方が成長や日常感が出ていると思うのでこのアレンジはありだ。
ただこの映画、面白いかと言われると結構チグハグに感じる部分や雑に感じる部分が多いと思う。ドキュメンタリックな作風故にドラマチックな描写はあまりない割に、いきなり過程をすっ飛ばすような抽象的な言い回しを入れちゃうのでチグハグに見える。そして過程をすっ飛ばすと言うことは雑な編集にも見えてしまうのも残念だった。あと先生のキャラ付けが全然現実感がない。終始生徒からあだ名呼びで大事な合奏中も威厳が感じられないし、何より指揮に覇気がないのは致命的にダメだと思う。吹奏楽部の顧問というのはけじめやメリハリのつけ方が大事なのにそれが描かれていないのは残念だった。
欠点だなと感じる部分も多かったけれど、やはり吹奏楽をやっていた人ならばきっと刺さる部分が多いはずだ。そんな自分にとってはかげがえのない映画だ。恐らく今まで書いてきた映画の感想の中で一番アテにならない感想なのかもしれない(主観が入り過ぎているため)