くりふ

パッションのくりふのレビュー・感想・評価

パッション(2012年製作の映画)
4.0
【牧神のいない午後】

最近、DVDで。守ってますねーデ・パルマ芸健在だ。

なぜ舞台がドイツ?と思ったらこれ、ドイツ/フランス映画なのですか。古風なデ・パルマ芸はもう、ハリウッドでは撮れないのでしょうか? Wiki本作ページを見ると大赤字だしなー。新たな若いファン獲得はもう難しいかもだけど、このベタな芸は残ってほしいものです。…私は制作費出せませんけどね。

かつてのトレンディドラマ(死語)で見たような気がする、気取った業界での殺伐として呆れるお話。人物にはまるで共感できませんが、おんなバトルが愉快だし、確信に満ちたスタイルで見事統御され、眼は飽きません。

見ること見られることに徹底しているのがまたも魅力。今回は記録された映像が凶器になるんですね。しかし映像に追い詰められた人間が映像で返すのではなく、刃物ひとつで爆走反撃するところがデ・パルマらしい。ちょっと笑っちゃったけど。

レイチェルさんは『ミーン・ガールズ』のJK女王蜂がそのまま大きくなったようで可笑しかった。

ペコちゃんが大きくなったようなノオミさんには同情しかかったものの、心移りが素っ頓狂過ぎ付き合いきれなくなった(笑)。

へちゃ顔カロリーネさんは、観客にももっとお尻を見せてほしかった。でも『パフューム』以来、相変わらずフェロモン醸していていいですね。

…と、全体ではユルイ印象でしたが、デ・パルマ芸MAXとなるバレエシーンが飛びぬけて面白かったので、以下つらつら書きます。これで投稿する気になったので、長いです。

バレエ観賞とある事件がスプリットスクリーンで同時進行するわけですが、演目は「牧神の午後」。有名な1912年初演のニジンスキー版ではなく、1953年初演のジェローム・ロビンズ版です。

成程!と感心した。(当時)先日「エトワール・ガラ2014」でこの生舞台で感激した名残もあったので、メチャ面白かったです。

まずこの演目について少し。音楽は同じ「牧神の午後」だし、男性ダンサーがニジンスキー版と似た仕草もしますが、別作品と言っていい程変わっています。そもそも牧神出てこないし。

舞台はダンススタジオで、男性ダンサーが眠っているところに女性ダンサーが入ってくる、という始まりです。映画だけではわかりにくいですが、客席側が鏡になっていて、ダンサーは鏡に向かって行動します。

ダンサーの視線は、自分を見つめるナルシスなそれと、自身を検証するダンサーのそれと、異性に惹かれる求愛のそれと、最低3つの視線を鏡にぶつけます。

そして、男女は互いに見つめ触れ合うこともしますが、鏡の中での出会いから、殆ど鏡を通してコミュニケーションするんですね。最後は、女性は鏡を見つめたまま出て行ってしまいます。

「幸福なディスコミュニケーション」という言葉が浮かんだのですが、生舞台をみていると、この摩訶不思議さに何とも言えず酔ってしまうのです。

で、デ・パルマがニジンスキー版でなくこちらを選んだのは、デ・パルマ芸が視線の芸であることが一番大きいと思います。

まずは視線を攪乱する面白さを狙っていますね。カメラはダンサーの顔にぐっと寄りますが、彼らが見ているのはどこまでも自分。こーれがスリリングなんですよ。

女優もできそうな美人ダンサー、ポリーナ・セミオノワさんのアップと、事件のクライマックスがジャジャーンと並びスプリットされますが、元舞台の摩訶不思議さをデ・パルマ流惨劇に巧く昇華していて、膝を打ってしまった。

で、視線の攪乱で言えば、この舞台を見つめ返している人物を超アップで捉えることで、客席にいるかわからないようにしていますね。ダンサーの強固な視線を受けているように見えて実は…という。

でもって実際は、ダンサーも客席を見ていないという入り組んだ倒錯感!(笑) 生舞台だけでなく、こっちでもちょっと酔いましたよわたしゃ。

また、映画のテーマにも沿っていますね。舞台が「幸福なディスコミュニケーション」とするなら、映画は絶望のディスコミュニケーション。誰もがわかり合えず、誰一人救われない。実に清々しいですが(笑)、舞台と映画ではポジとネガのように対比されていると感じました。

で、1953年のバレエが実に新しいことをやっていたのだなあ…と改めて感心したのでした。

えーと、他にも幾つかあった気がしますが、忘れたので思い出したら追記します。

最近バレエをみるようになってまさか、デ・パルマ映画がこんなに面白くなるとは思いませんでした。

あ、「牧神の午後」の上演時間は短いし、現実にああするのはリスキーだと思います。またベルリンの劇場事情は知りませんが、日本だと途中でああするとかえって目立つでしょうね。各扉で案内係のお姉さん構えているし。

そういえばポリーナ・セミオノワさんは、日本ではユニクロのCMに登場していましたね。彼女の生舞台も見たくなりました。

<2014.9.8記>
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