なちゅん

愛情は深い海の如くのなちゅんのレビュー・感想・評価

愛情は深い海の如く(2011年製作の映画)
3.6
観終えてから、タイトルの深さに溺れそうになる。へスターのセリフにもあった。
「海よりも深く愛する」というのはある種の定型句ではあるけど、果たしてその深さというのは命取りにはならないか。
息もできない深海で水圧に押し潰されるその感覚と、深くのめり込んで愛し愛される感覚は似ているんじゃないか。そこまでの愛を経験したことはまだないけれど。

そういう思考と考察の深さを求められる点と、いちいち様になってしまうトム・ヒドルストンが絶望的に美しい点が私にとってのある意味での救いだったし、観てよかったなとも思っている。特にあの瞳にいっぱい涙を浮かべながら、一粒も落とさず、「be safe.」と別れを告げたフレディ、もとい、ヒドルストンの美しさたるや…。
でもその2点を差し引くと、あの気まぐれに荒れて怒鳴り散らして怒りをあらわにした後でぱったりと黙り込んで無視を決め込むフレディは元彼そっくりで、話さないからとか誓うわとか出来もしないことを口走り、それでも一緒にいたいと追いかけるわ押しかけるわ電話はするわで縋った挙句、大泣きしながら謝るへスターは当時の私そのままで、観ているだけで過呼吸になりそうなくらいキツかった。置かれている環境が違うし、私の過去などは比較対象にもならないのは重々承知しているけれど、あまりにも重なってしまって苦しかった。映画の中だからまだ許される。主演2人が美しいからまだ観ていられる。でもきつかった…

ああ、もう一つ救いがあった。
あの涙と残された手袋で、フレディが本当に、「彼なりに」ではあるけれど、本当にへスターを愛していたのが分かること。
へスターの求めた愛ではなかったかもしれない。随分歪んでいたかもしれない。愛の見え方が違っただけだったのかもしれない。それが悲劇ではあったけれど、フレディは確かに愛していた。それは救い。
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