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her/世界でひとつの彼女のTPのネタバレレビュー・内容・結末

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

 一言でいうと、私にとっては何も心に刺さってこない映画。
 近い将来、描かれているようなOSソフトは出てくるだろうし、ソフトは当然、持ち主の嗜好に合うように変わっていくものだから、恋愛感情を持つようになること自体はわからないでもない。
 しかし、ソフトとの疑似肉体関係にトライする前に、「ちょっと待てぃ!自分がなにやっているかわかっているのか?」と逡巡しないのか。そこはどうしても理解できないし、ソフトと共に外に繰り出し、独り言のようにソフトに語りかけ、人の迷惑も顧みずに一人で妙な動きを続ける主人公をキモいと感じることに抵抗できず、セオドアはもちろん、奇抜な事を発言し始めるOSソフトのサマンサにも心が寄り添えない。
 ただ、セオドア自身は、少しコミ障なところはあるし一人でいることのほうが好きという性格はあっても、人間的に優しくていいヤツであることは間違いないため、嫌悪感までは感じないのが救い。

 あと、その場面の冒頭からおかしいと思ってしまうのが、手紙代筆ライターであるセオドアが過去に代筆した手紙を本にして出版するというエピソード。
 その手紙はセオドアが書いたとはいえ、版権は依頼者にあるはずで、その手紙の内容は依頼者の極プライベートなものを含むはず。そんなものを出版できるはずがなく、能天気に喜ぶサマンサとセオドアの描写が、双方とも知識人(?)であるために、とても異質で軽々しく、非常に浮いている。

 ただ救われるのは、上昇志向が強く自分を超えていく相手に反感を持ってしまうセオドアは、そういう自分の欠点を受け入れて、元妻に理性的なメールを送り、また近いところで過ごしてきた親友の女性と寄り添い、その現実の人間の肉体の重みを肩に感じることで、OSソフトとの疑似恋愛は疑似でしかないことを悟り、自分の弱さも受け入れながら人間世界で自分に正直に生きていこうという決意を感じるラストシーン。
 AIとの純愛という側面が注目されがちだが、この映画は、AIとの疑似恋愛という回り道(かなり長かったが)をした結果、やはり人間は辛くとも人間社会の中で生きていかなければならない、そのためには、一歩一歩成長や受容を身につけること、という現実社会における大事なことを描きたかったのだろうと思う。
 もし、サマンサとの疑似恋愛の方向を突き進んで終わったとしたら、私の評価は間違いなく2点台になっていた。
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