ちゃんと濱口竜介で私が嬉しくなっちゃう長編デビュー作──濱口竜介の長編デビュー作となった8ミリ映画。ずっと観たかった作品ようやく鑑賞叶いました。もう正真正銘の濱口竜介だった。いやーすごい。嬉しい。かっこいい言葉で褒めたいけど無理だ。すごい、嬉しい!
私は『親密さ』フリークなのでどうしても同作を基準にハマグチ作品を観てしまうんだけど、この『何食わぬ顔』は相当『親密さ』に近いし、その他の作品で花を咲かせることになる萌芽もたくさんあった。逆方向の乗り物に乗って別れる、テキストを読み上げる、胸の内にある相手の位置づけを開示する、クラブ的な空間に足を踏み入れる(このこだわり私いまだに謎)、劇中劇的な入れ子構成、演じる身体、などなど。逆に『何食わぬ顔』で撮り終えて満足したっぽい要素って“馬”くらいなんじゃない。ジョン・フォード好きみたいだし、馬を撮りたかったのは間違いないだろう。あと本作めっちゃカサヴェテスだったな。流石に以降の作品ではここまで色濃くない。
私は濱口竜介をあんまり観てない頃、彼はコミュニケーションを主題に映画を撮っている人なんだろうなと思っていたけど、今は“深淵(他人の内側)を覗き込んでどこまでもわかり得ない底の深さを知る”という相互理解とはちょっと違う主題の人なんじゃないかと思ってる。この“わかり得ない他者”に対する落とし前の付け方が例えば『THE DEPTH』『親密さ』『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』とか各作品によって異なっている理解。『悪は存在しない』のパターンやっちゃったら後は何があるのか、今後も楽しみ。