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サタンタンゴのmareのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
5.0
どう形容すればいいんだこれは。まず後にも先にもここまでの映画体験は出来ないだろうと断言できる。そして自分の持ちうるボキャブラリーでこのサタンタンゴを評価するのは無理ってもんだ。そもそも映画という呼び方でこのサタンタンゴをくくってしまっていいものかという不確かさすら湧いてくる。これが映画を超越した何かであることは間違いない。タルベーラがどういう人生を歩んで、何を見て何を感じたらこういう映像に昇華されるのだろう。ぶっちゃけ映画よりタルベーラ自身の生き様が気になって仕方がない。
泥沼化した不穏なディストピアを舞台に堕落した人間。そんな人々の眼から見える別々の景色をなぞるシークエンス、ねっとりと映し出される退廃的なミニマリズム。力あるものと力なきものを浮き彫りにする人間模様。そして映像美の極地、この映画の最大のシンボルともいえる3人の男が吹き荒れる強風を意に介さず悪路をひたすら歩くカット。思い返せばそれぞれにとてつもない哲学が秘められていそうだが、それらを全て拾い切れるわけはなく謎は謎のまま永久に解らない。それが映像として美しい形の最たるものか。7時間という途方もない時間から映り込む映像のひとつひとつが強烈に鮮明に、美麗なフォトジェニックとして頭の中で蘇る。いつまでもこのモノクロームの中で遊泳していたい。
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