このレビューはネタバレを含みます
事実に基づく映画だと信じたくない、直視できないようなネグレクトのお話。
映画では描かれていないけど、気になってwikiで調べたところ
実際の母親は、親からネグレクトを受けて育ち、中学時代に輪姦による性被害を受けた過去をもつ女性。更に、公的機関へ子供を預ける相談をしていたこともあるが実施に至らず。近隣から、児童相談所へ虐待を疑う通報も数回あったが、発覚することなくこの悲惨な出来事を食い止められぬまま、尊い2人の命が奪われてしまった。
行ったことに対して、過去の出来事はその罪を許す理由にはならないけれど、
母親が子供の時にうけた全ての苦しみがない、もしくは大人が気づいて救いの手を差し伸べて上げられる日本社会だったら?もしかしたらこの事件は起きなかったかもしれない。
虐待は、被害者であった人が加害者になるケースが多いと聞く。負の連鎖によって苦しみを受けた人が新たな苦しみを生んでる。
そして、その苦しみに寄り添うことも助けてあげることもしなかった人々が、ニュースを見て一斉にその保護者(ここでは母親)をたたく。でもたとえば父親は亡くなったわけではないのにこの事態に気づくこともないほど、自分の子供に無関心だった事実にはほとんど触れられず、育児の負担を1人強いられていた母親だけが責められてしまうこともまた社会の歪みを感じる。
助けることはしないのに、裁くだけ裁くこの構造に歪さを感じる。自分も同じ経験をしていたら、同じ経験をしていたかもしれない。
起こった後にそれを責めるより、起こる前に親子が抱える苦しみに寄り添う、解決する社会でありたいと本当に思う。
そして、通報があったにも関わらず見つけられなかったそのシステムの欠陥。また、母親もはなから興味がなかったわけでなく、誰かに自分の子を助けてもらいたいと思うSOSを出していたのに届かなかったと言う事実。これはあまりにも悲しい現実で、この仕組みを変えないことには、全ての負担と苦しみを親だけが背負わなければならなくなり、結果としてこのような惨事が発生すると思った。
映画はその辺りの背景に触れてもよかったのではないかと思う。どうすれば社会のみんなで、子育てを見守ることができるのか。なぜそんなことが起こってしまったのか。そこに厚みを持たせた映画だったらよかったと、かなり個人的な感想。
定点による撮影はあまりにもリアルでグロテスクで。考えさせられる部分もありつつ、放置されていた期間の子供達は誰も見ていないわけだから、想像の域を出ない。こんなものではない孤独や苦しみや痛みがあったと思う。できることを考えたい。色々思うところはありつつも、改めて親、子供、社会のあり方を考えるきっかけになったので見てよかった。