くりふ

グランド・ブダペスト・ホテルのくりふのレビュー・感想・評価

4.5
【ウェスにーランドでおもてなし】

キネ旬シアターにて。今回のウェスには嵌った!彼の頭にある幻想、悲喜こもごも思い出の欧州を箱庭化してみせたと。

お菓子からファシズムまで、可愛らしくも切実、豊かなウェスにーランドの中を見事すっとぼけてコンシェルジェ。

ツヴァイクは未読だし、欧州史にも詳しくないけれど、本作のわけは直感的に伝わるから問題なし。個人的には本作、ベストウェスです。

・よくできた短編小説を連作で味わうような満足感
・ウェス運動、とでも呼ぶべき動画の法則、最高潮
・撮影含め手作りのクラフト感覚が細部まで和ませる
・スターを贅沢に配しているのにまるで無駄を感じない
・切実であっても後味を濁さぬ心理描写のさじ加減

…等々。

駄文を連ねても本作の魅力を逃すだけかと思い、ざっくり箇条書きにしてみました。

映画的奥行きとして面白かったのは、何重にもなった玩具箱を開いてゆく感覚にずっと貫かれていること。これが年代別に変えた画面アスペクト比や、ピンクのお菓子の箱や、脱獄の穴など全て連動していたと思います。

そもそも、始めの本を開く感覚からそうでしたが。スクエアなホテルのドアが開いてゆくのもそれですね。

一方、お菓子の丸みとバッジの丸みが連動していて、そこに鍵の丸みが加わり、物語を外から助けていたと思う。主にシアーシャ演じるアガサの担当イメージですね。…ってつまらぬ記号分け続けちゃいそうなのでやめときます(笑)。

本作の人物が好きなのは、ウェス運動に忠実に直進して悩まないこと。

もぉ潔い!そりの爆走が頂点でしたが、アレ止まれなくなったのは忠実だからですね。

でも彼らはドライでもあって、主役級の少年が人殺しても構わず進んじゃう。しかし…不思議と気にならない…これは幻想だから。

そもそも、本作で雄弁に語る人物たちは、すべて既に死んでいますね。ここポイントかと。「美しき廃墟」ってキーワードが思い出されます。

ツヴァイクが活躍した頃の欧州、その栄華を頂きとした幻想をどう残すか語り継ぐか。底にはそんな人の想い、妄執があって本作の奥行きとなっていると思います。

…って、スッキリ終わるつもりでしたがヤバそうです。このへんで終わります。感じたことの半分も書けていない気がしますが。

ところで、マダムDのモデルは誰なんだろう?この事件がずっと腑に落ちなくて。モデルが誰か、もしくはモデルとなった事件がわかれば、あの極端な息子の行動含めてすんなり呑み込める気がします。

出番少ないメイド役、レア・セドゥが画面隅でしっかり光って見事でした。しかしベストヒロインはやっぱり、健気に大活躍するシアーシャちゃんでしょう。彼女は肉体的にも厚みがあって、男どもよりリアルだったと思います。

<2014.8.31記>
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