物語のおしまいはあっけなく、儚く、とても美しい。
本作はとある女性(名前も出ません)が偉大なる作家の銅像の前で、彼の回顧録の書物を読むシーンから始まる。
そして唐突に場面は当時執筆をしていた作家の存命の日々へと移り、彼が語りだす。
彼はとあるホテルに宿泊した際、ホテルのオーナーと偶然知り合い、食事と共にその若き日々の話を聞くこととなる。
するとまた場面はオーナーの過ぎ去りし日々へと移っていく。
この二重三重と過去へと上っていく物語の構造、入れ子のような展開が、おとぎ話のような、優しく不思議な感覚へと誘ってくれる。
監督はムーンライズ・キングダムのウェス・アンダーソン。あたくしはそんなに多く彼の作品を観たわけじゃありませんが、その少ないながらの中でも、件の優し懐かしな雰囲気を創るのが本当にうまいと思う。
雪山のシーンやなんかでもそうですが、彼の撮る非現実的な展開やシーン、それこそ絵本やなんかでしか見られないような、を現実の映像として観た時に、ありえないんだけれどもありえるような、リアリティの境目ががぼんやりとしてしまうような気持ちになってしまう。そしてそれがあたくしたまらなく好きです。
登場人物も魅力的で好き。ラストにどどっと展開されるストーリーも、おとぎ話のおしまいに。それから~~でしたとさ的な、寂しいような気持ちになっても、はいここまでよと締めくくられてしまう、あの気持ちを久々に思い出しました。
人の隆盛、歴史や物語、恋やら愛やら友情やら、過ぎ去ってしまったものが千々になって星のように輝いて、消えてしまったわけじゃないけど、誰の気にも止められないものが、ふとした時に目に入ってあぁ素敵だな綺麗だなって思うような、自分でもよくわからないですが、まこと不思議な気持ちになる映画でした。