垂直落下式サミング

座頭市果し状の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

座頭市果し状(1968年製作の映画)
3.5
クライマックスの刃によるぶつかり合いと地に伏す悪党という絵面が、このシリーズの特徴だ。本作でも、その事を強調するかのように、医者の順庵役の志村喬と用心棒役の待田京介の渋さでストーリーを落ち着かせ、あとは物語のドラマ性よりも殺陣アクションの部分に入れ込みが深いように感じられる。なので、タイトルにもなっている果し状が何なのかは最後までわからなかった。
おにぎりに砂利を入れたチンピラの胸元を市の仕込み杖が一閃すると赤い血煙が吹き上がる。これはなかなか挑戦的。『椿三十郎』のクライマックスをいきなり冒頭からやってしまっておいて、主題歌「座頭市子守歌」が鳴り響くというこの不敵さ。まさに座頭市。
しかし、市はその後の展開でなかなか仕込み杖を抜いて人を斬らない。「メクラの血も赤えや」などと侮辱されたにもかかわらず、敵対者との対決は物語の後半まで尽く回避されるのだ。そんなフラストレーションの蓄積も相まって、野川由美子が怒りの市と会合する場面はホラー映画のような緊迫。長ドスを逆手に持った座頭が雪駄の音をたよりにゆっくりと近付いてくる恐怖を演出している。
お約束のアクションについては、戦いの途中で市が深手を負うのは珍しいと感じたが、特に面白いものはなかった。志村喬が医者なのは回復アイテム的なあれだろう。なので市が怪我をする必要が無かったら、普通の町人でもいいような役回りなのだが、なかなかどうして有能である。渋くて有能なのだ。