垂直落下式サミング

だれかのまなざしの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

だれかのまなざし(2013年製作の映画)
4.0
「吊革をまるで命綱みたいに強く握って…」
詩人ですね。上空からの日が沈んだ都会を見下ろす。平凡なくたびれOLの人生を優しい視線から語っていくのは、実家にいる猫ちゃんのまなざし。
みんなスマホがさらに進化したような通信端末を持っていて、ちょっとしたSFな世界観も見所ではあるけれど、なにより主人公の女性のキャラクターの描き込みに、しっかりと力が入っている。信頼できる男の仕事だ。
上京して一人暮らしはじめたて女子の生活に対する解像度が高め。その洞察力と表現力に生々しさがあって、ちょっとだけキショい。さすがに、野村不動産のプロモーション映像でございやすから、しっかりとオシゴトとして健全に仕上がっていたものの、さすがの新海。女の子大好き芸人、発動。
学生時代の記憶がフラッシュバックするとき、セーラー服のお友だちと並んで歩いている主人公のポジションは、楽しそうに話してるみんなの一歩後ろ。クラスのなかでそういうタイプだった人が就職して地元を離れると、だんだんその時の友達とは疎遠になっていって、夢に見た都会の華やかさは自分の肌に合わず厳しい現実に揉まれながらすり減っていって…みたいな、あい変わらず題材が「女性の生活」となると芸が細かい。
ホント、若いころって、どうして心を潰して泣きながらでも都会で暮らしたいんだろうね。おまえは優しい子だって言われて育ったら、そんなこと耐えられる強さなんて身に付くはずないのに。ゆとり世代の都会的な孤独を、よくわかってらっしゃる。
親との食事が嬉しい年齢じゃなくなるのは、二十代に差し掛かるところ。三十代も目前になってくると、ようやく相手を慮ることも出来るようになるから、義務的にではあるけれど、こちらから顔を会わす機会を作るようにもなる。彼女もそうなるんだと思う。少しずつ。ペットの死で気付く、時間の有限さ、親の有り難さ。僕らはなにかを失わないと、その大切さに気づけない。悲しいけど、そういうもんだ。
振り返れば、見逃しちゃった幸せがたくさんあるけれど、これからの幸せの続けかたは本能が知ってるよって、あなたは祝福されて育ってきたのだから。優しいおはなし。建設屋さんのコマーシャルとして、家族の繋がりの物語として、上手くまとめたと思う。