ルサチマ

熱き夜の疼き/クラッシュ・バイ・ナイトのルサチマのレビュー・感想・評価

5.0
メロドラマの最高峰。『ストロンボリ』のような漁港のロケーションを『ゲッタウェイ』の如きデクパージュで提示する。堀禎一の『天竜区奥領家大沢 別所製茶工場』は今作が念頭にあったのではないかという気さえする冒頭から一気に持ってかれる。なんといってもバーバラ・スタンウィックの立ち振る舞いがクール。弟の家にやってくる前半で手袋をはめた片手をコートのポケットに突っ込んで、もうひとつの片手でタバコを吸うシルエットがいかにも都会的。そんな彼女がタライを持って洗濯物を干すのだから、退屈極まりない日常に身を囚われた不名誉な出立ちであることが痛いほど判るうえ、規則的な配置の洗濯物のレールを潜り抜けようとする身振りが彼女の若々しさを滲み出す。朝のキスを否定していた彼女が、旦那と例外的にキスを求めることで自分の置かれた立場に安心しかけようとするも、結局のところそうした付け焼き刃の愛情表現では一切の安心感を得られないまま、目覚めたばかりの若い男と抱擁してしまう一連のシークエンスも見事。105分の時間の中でバーバラ・スタンウィックの振る舞いが何度も大幅に変容するにもかかわらず、見る者に混乱を与えることなく芝居の連なりを設計していくことに加担する見事な情景描写も別格。瞬間的にインサートされる宙に浮いた雲間に隠れる太陽のカットに驚かずにはいられない。
ルサチマ

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