くりふ

ブルージャスミンのくりふのレビュー・感想・評価

ブルージャスミン(2013年製作の映画)
3.0
【狂い枯れる切り花】

ウディ・アレンにはいつでもみられるしなー、という軽い印象があって、気づけば『タロットカード殺人事件』から後、ご無沙汰でした。

本作はバーナード・マドフ事件が元ネタらしいことと、ケイトさんが力演らしいという興味から行きましたが…ウディ映画ってこんなに退屈だったっけ?というのが正直な感想です。

ケイトさんはお見事でした。ジャスミンというイタ女を、共感できる切り口を残しつつ嫌味のないリアルで血肉化しています。その匠に舌を巻きました。

サイズ的にデカく見えるのも演技力の賜物でしょう。時々まさに、ホビット庄に紛れ込んだガラドリエルみたいに見えましたよ。あと、シャネルスーツから浮き上がる、盛りの過ぎた美尻がお見事!(笑)

…しかし私にとっては、本作の魅力はほぼ、それだけでした。

監督がジャスミンを実は溺愛し、彼女の内側ばかりに寄り添い傍観して終わった印象です。うまく言えませんが、業病に罹った彼女を見つめああ、大変だねえ、でも可愛いよジャスミン…と彼女が死ぬまで呟くみたいな。しかしこれって真の愛情なのだろうかと(笑)。

全体、どこかを甘く感じて居心地が悪いです。例えば、アレック演じる詐欺夫の犯罪レベルが具体的にわからないから、事件のジャスミンへの影響がどうも曖昧な辺りとか。

監督インタビューによると元ネタはバーナード・マドフ事件ではないそうですが、あの規模ならルース・マドフ夫人への風当たりも凄まじかったから、ジャスミンのように余裕ぶっこいてられない筈ですね。息子は自殺してるし(事件が原因とは断定できぬようですが)。

もっと夫の実態が表に出て来ないと、ジャスミンの世の中に対する立体感も出て来ないと思った。

他にも、ピーター演じる政治家(候補)の脇の甘さなども腑に落ちなくて。彼の立場ならジャスミンの過去を調べるでしょう。こっちも詐欺師じゃないかと疑っちゃった。

あと、笑わそうとしてるとはわかるけれども笑えない、辺りがしんどくて(笑)。ここに出てくることって、なるべくしてなったことばかりで、笑えるような意外性って皆無じゃないかと思ったのですよ。

サリー演じる妹ジンジャーの、Let it goなちゃっかりぶりは少し面白かったけれど、姉との対比で相乗効果になるような面白さは出てきませんね。

そんなこんなで、ジャスミンの魅力、その美しさって切り花のようだな、と感じました。外から水をあげないとすぐに枯れてしまうもの。

これは物語の内側ではもちろんそうだし、映画の外からみたジャスミンの存在も浮足立ってしまっていて、彼女と映画との一体感をおぼえませんでした。映画に根を下ろしていないかんじ。

パンフに本作の受賞実績が40くらい載っていてスゴイと思いましたが、ほとんどケイトさんの演技に対するもので、他は2つ程しかありませんでした。さもありなん、と実感してしまったことがちょっと寂しい。

<2014.6.3記>
くりふ

くりふ