菩薩

うたうひとの菩薩のレビュー・感想・評価

うたうひと(2013年製作の映画)
3.0
まだ8年なのかもう8年なのかと、今年も3月11日が再び巡って来た日にそう考えた人は多くいたと思うが、いつかはそんな日も「むかーしむかし」の事として、語られる日が来るのかもしれない。話す・聞くのプロセスを通して、記憶の彼方に眠っている何かが掘り起こされ、蘇っていく。同じ(様な)話であっても、語り手が変わればニュアンスが変わる、真偽それ自体を歪めてしまってはとは思うが、あの日から前に進む為に、伝言ゲームの様に語り継いでいく事はやはり必要、もっとも危険なのは誰も語らず、誰も耳を貸さなくなる事である。子種や富など何かがもたらせる話もあれば、人々に警鐘を鳴らす不気味なもの、はたまたずる賢さを裏手に取った生活の知恵たる話もある。人々の生き様が物語に変換され、そして継承されていく、語り手・聞き手を真正面から捉えるそれは、まさしく濱口竜介の姿勢だろう。喜びも悲しみも幾歳月、そこに生きる人間と共に、物語は息づいている。
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