【女はつらいよ ワジダわが道をゆく】
面白くて岩波ホールで2度見したものの、感想まとまらず時間経ち…DVDで再見。
表向き、自転車を欲しがる少女の小さなお話ですが、木を見て森を知る映画になっていますね。可愛らしい木だなあ…と親しんでいると、それが恐ろしい森に生えていることが段々わかってくる。サウジという国の厳しい面に、気づけば取り囲まれているのです。
主人公ワジダ役のワアドちゃん、巧くはないけど可愛らしく好演。彼女の微笑ましくもアウトローな日常を追うことが、国情を伝えるガイドとなります。この構成が巧い。
そして彼女を起点に健気な母親、規律に厳しい女校長…他、各世代や立場を背負った女たちがスケッチされてゆく。
逆に男たちはわりと記号的ですね。男性優位社会を内実でなく障壁として描き、その塀に囲まれた中で生きる女たちの悲喜こもごも。女性差別への告発というより愚痴に近いけれど、泣きごととして閉じないのは、個を貫く少女が主人公で、彼女が未来を変える可能性を秘めているからでしょう。
小さいですが、女性が乗ってはいけないとされる自転車は、そのシンボルですね。
映画の方向性からより感じますが、あちこち壁が印象的です。どこか息苦しくて。そんな壁の向こうを、まるでワジダにおいで、と手招きするように現れる自転車が夢のよう…ワジダ視点に嵌っちゃうと。
この自転車、車輪の真直ぐな白がいい。壁も白が多いですがどこか煤けていて、それを突き抜けるような強さがあります。ワジダがこれを乗りこなせば、その力でエクストリームのように壁を飛び越えられるかもしれない…と思わせてくれます。
彩り豊かな女たちですが、ワジダ母の存在が本作を底支えしていますね。男社会の中で酸欠になってゆく彼女が最後、娘に託すものがホント泣かせますが、それを許したのはとても大きいことでしょう。内心、聞かん坊な娘の変革力に期待しているのかもしれない。
このシーン、花火もすごかった。日本映画で幸福感の高まりとしてのそれをよく見かけますが、本作の花火はなんとまあ、苦いこと!
校長先生も面白いですね。女の敵は女、の代表のように描かれますが(女性の声は肌と同じ、という教えに驚愕!)、ある噂によると彼女も女を忘れたわけじゃない。美しくあることも忘れずに、処世術として鉄仮面を被っているのが透けています。ワジダがもうちょっと育てば、その仮面を剥がせそう、と想像させてくれます。
その他、感想いろいろありますがこの辺で。み終わると、木を見て森を知る構造からこわさが残りますが、幹は少女の小さな冒険物語として楽しく仕上がっています。
自らの目的のため、ちゃっかりコーランも利用する彼女の未来が、厳しくも楽しみ。
サウジでの映画製作はかなり困難のようですが、この好編を作り上げた女性監督に素直に拍手したいですね。
<2014.8.1記>