テロメア

インセプションのテロメアのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
5.0
ノーラン監督の最新作『TENET テネット』の予告編を見て、久しぶりにノーラン節を見たくなり、妻が今作を観たことがないというので、僕的にはノーラン監督の映画でのマイベストである『インセプション』を鑑賞することになりました。

今作『インセプション』はSF的な設定としては、特別ずば抜けて新しいものではなく、日本でなら押井守監督の『イノセンス』のワンシーンでの電脳迷路などで映像化されているくらい比較的にわかりやすいポピュラーな設定です。

しかし、それをCGを極力使わずに、徹底的に「夢の中に入り、アイデアを盗む」ということに掘り下げ、徹底的にリアルな映像で描き切ったことが素晴らしい!

夢の中へ入るという話は今敏監督の『パプリカ』や、共有した仮想現実を見るデヴィッド・クローネンバーグ監督の『イグジステンズ』や、ターセム・シン監督の『ザ・セル』も意識の内面に入るという共通性はあるかもしれない。

しかし、今作がずば抜けている点は、物語の根源が主人公であるコブが最初から最後まで中心軸としてあり、あくまでトラウマを抱えた男が、それを受け入れ前に進むというストーリー展開と同時進行するターゲットにアイデアを植えつけるという展開が、無駄なく物語られていて観ているときの没入感が心地良いところだ。

大抵のSF映画を苦手とする人に訊くと、世界観設定を理解する前に次々進んでしまい、映像的には凄いと思えるものはあれど、その映画に没入できないという。つまりは映画において過度な世界観設定は鬼門である。まあ、それはどんなジャンルにも言えますが。

(だから、脳筋映画が素晴らしい点は説明不要なところにあるのです! 筋肉がすべてを解決するというシンプルさよ!)

だが、ノーラン監督は今作において、世界観設定をスムーズに流れるように説明しつつ、観客を置いていかないテンポの良さが、普段はSF映画を観ない人すら魅力する点だと思います。


そして最近では「また時間を弄りやがった!(褒め言葉)」と言われるノーラン監督ですが、ノーラン監督の時間弄りには手法が二つあり、今作はその両方が上手く噛み合っており観ていて楽しい。

一つはノーラン監督の初期作『メメント』のような、いわゆる映画的技法としての時間弄り。これは初見ならば楽しめるが、二回目三回目となると、驚きも感動も薄らぐのは仕方がない技法で、ある意味、捨て身技法だと僕は思います。

もう一つは今作のように、主人公たちが時間の隔たりを感じたりする物語に深く関わる設定としての時間弄りです。こちらの方が個人的は好ましいですね。

ちなみに、冒頭のシーンがあの状態のサイトーとコブなところから現代軸へは、フラッシュフォワード(未来を先取りして見せる技法)とも取れますが、僕はあれはサイトーとコブの夢の共有による思い出しシーンからのラストシーンだと感じました。これは映画的技法と物語的設定の両方からの時間弄りを成功させたのだと、僕は解釈致しました。

ちなみに、ラストシーンでの現実に戻れたのか否かは、ノーラン監督のインタビューで確認できますが、あくまで観客の好きに解釈できる余地を残す辺り、映画としていろいろ考察する楽しさがあって、とても好ましいですね。


さて、もうすぐ令和元年も終わり、今作『インセプション』も約十年前の映画になるのですねー。しかし、今観ても古く感じないのは、やはり極力CGに頼らない映像描写だからだと再認識しました。CG技術の進歩は凄まじいですが、逆にいうと今の技術はすぐに古びるということ。

ノーラン監督のリアルな映像を追い求める撮影スタイルが、古びない映像として映画に残るのだから、こうしたリアル派監督が増えてほしいですねー。まあ、CGごりごりどころか、CGオンリー映画も大好きですがね。ノーラン監督の新作『TENET テネット』を楽しみにしつつ、まだ観ていないノーラン監督の映画を観ていこうと思います。


今回の最大の収穫は、妻が今作を気に入ってくれたことですねー。と惚気が出たところで、レビューを以上と致します。
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