テロメア

ブラックアダムのテロメアのレビュー・感想・評価

ブラックアダム(2022年製作の映画)
4.3
今作は概ね満足のお祭りヒーロー映画でした。お祭り映画として考えるなら、『アベンジャーズ』のようにニューヨークという世界観を描く必要のないところで暴れた方が楽しい。が、今作は架空の独裁国から始まるから、その近辺の描写がお祭り感を阻害していた。スーパーヒーロー映画への皮肉描写は、シャザム系のキャラクターには必須なのか、と思うほど途中でスーパーマンとかのポスターなどを殴りまくっている描写は、のちの展開への布石、と見えるのではなく、ただ単に『シャザム!』のエンドロールのような雑な扱い方に感じた。なんというか、スーパーヒーロー映画なのに、スーパーヒーローに対する敬意がないような印象を受けた。

特に、スーパーヒーロー側としてホークマンが割りを食ったキャラクターだろう。主に脚本的な問題で、彼の魅力が何一つない。もちろん、アメコミからの魅力ではなく、本作の映画内での魅力がないのが問題だ。ブラックアダムへの比較対象として、盲信的な正義の塊ヒーローとして描かれている。それはいいのだが、その描き方がスーパーヒーローに対する皮肉り展開のため以上に意味がないのが大問題。「ヒーローは誰もこの国を助けにこなかった」に対し「だから今来ただろう」とジョークにすらなっていない返答しかない。その後も、一方的に独裁国の反乱者(反乱軍でないから余計に個人的な反政府活動にしか見えない)から言われるだけで反論できず。本当になぜ来なかったのか説明できないのかよ、あかんだろ、て思った。そんなんで今までどういう風に活動してきたのか、彼らの歴史がまったく感じられない。

本来ならホークマンは即座に反論として「独裁者に苦しんでいます、だと? 独裁者はメタヒューマンで、人外の能力で圧政をしているのか? 違うだろう。相手は普通の人間だ。そんな独裁者はスーパーヒーローが現れる前の時代から、どこの国でもあったことだ。それを打倒するのはその国に住まう市民だ。市民が立ち上がり、打倒しなければならない。外の国の人間からしたら、ここの独裁者が本当に圧政を敷いているのか分からない。独断偏見で国境を越えるわけにはいかないのだ。メタヒューマンの力は強大な武力だ。安易に内政干渉できないのだよ。それに、この国は内戦状態になっていないだろう。他国から見ればそれが堪えにたえているのか、受け入れているのか分からない。そもそも、自国のことを他力本願でスーパーヒーローが来なかったから、いま来たことが気に食わないというが、本件は独裁者とは関係ない。たとえば、意思を持った核兵器がいるとする。この核兵器は過去に暴発している。理由は知らないが、また暴発されては危険だ。だから、それに対処できる処理班が、国際安全保障条約に則り派遣された。これはこの国の有事ではなく、世界的な有事なのだ。だから、我々が来た。独裁者を倒しにではなく、危険物を除去するためにだ。この国を救うのは君たちで、我々ではない。お分かり頂けたかな?」などとお説教をしての、なんだかんだ後半の立ち上がる市民たち、なら流れ的にも自然だったと思う。上記の長台詞は半分以下に推敲しなければならないが、ホークマンが自らのヒーローとしての行動に対し、何も考えていないのが本作の問題だろう。

スーパーヒーローの力は強大な武力であり、それをチームにしているのだから、行動理念を明確にしたリーダーがいなければならない。が、本作の描写では魔王ウォラーの部下チームのひとつにしか感じない。ということも問題だが、そもそもブラックアダムが単に話せばそれで済んだだろう程度の闇しか抱えていなかったのが問題だろう。力が暴走してという展開はよくあることだが、やっぱりお前らが問題なのでは魔術師たちよ、となるし。シャザム系の根本的な原因はこいつらだと思う(『シャザム!』でもヴィランのきっかけだし)。シャザム2でもこいつらが原因かと別の意味で楽しみだが。とにかく、脳筋お祭り映画にも最低限の政治的判断などの筋道は必要だよね、という感じでした。

ブラックアダムの闇がほぼなかったのが残念だった。予告編での勝手なイメージでは、俺様が気に食わないものは全て破壊してやるー、うははははー、と暴れ回って、ヒーローチームが「なんかヤベぇの出たぞ」と緊急出動するもボコられる的な展開だと思っていた。が、子供と交流する前からそもそも優しかったので、ダークヒーローでもアンチヒーローでも、ましてやヴィランではないので、普通に新規ヒーローだったのだから、それならもっとあったのでは、と思えてならない。

ほとんど暴れてくれていたから退屈しないし、ヒーローだけではなく最後には人々が立ち上がるという、近年のヒーロー映画に欠けていた重要な登場人物である市民をちゃんと活躍させていたのは好印象だった(近年の市民描写は、ヒーローの真のヴィランは市民らだ、状態だし)。それゆえに、ホークマンらの他国ヒーローたちのぐだぐだが目立って残念だった。最後のサプライズゲストも今後、バトルか共闘かと期待させてくれる最高さよ(ちゃんと顔も出てたし)。まあ、それが頓挫してしまったらしいが、単体としては(上記に色々書いたが)満足した。これで続編を作らないというのは、心機一転したはずのワーナーとして残念でならない。過去作から復帰も素晴らしいが、今築き上げた映画を上手く活かしてDCユニバースをマーベルとは違う形で確立してほしいと願っております。
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