よっちゃん

アクト・オブ・キリングのよっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

アクト・オブ・キリング(2012年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

街で見かける他人がどんな人生を歩んできたのかはわからない。電車で隣に座っているおばさんは元アイドルかもしれない。近所のスーパーの店員は未解決殺人事件の犯人かもしれない。真相はわからない。きっと違う。でもそういう人は確実にどこかには存在している。私たちはそんなことを日々意識せずに生活している。

人は見知らぬ他人の過去をあまり想像しない。実際に見たり聞いたりするまでは、他人の人生は平凡なものであると勝手に思ってしまっている。人間の想像力には限界があるからである。だが、平凡だと思っていた他人にひとたび特殊な過去があるとわかれば、人は不思議な感情を抱く。

この映画はそんな感覚を極限まで呼び起こす。9.30事件で数百万人の共産主義者を殺した老人たち。彼らはその残虐な行いを一切反省していないにもかかわらず、今では平然と家庭を持ち豊かに暮らしている。一見どこにでもいるようなおじさんの口から飛び出すおぞましい過去の悪行に言葉を失う。共産主義者は殺されて当然、レイプされて当然。そう考えている人間が未だに多く存在しているということを、この映画を見るまで容易には想像できなかった。ニュースを見たり、本を読んだりするだけではここまで強烈に心に響くことはなかっただろう。

映画を制作していく中で、老人が徐々に罪悪感に苛まれていく様は、感じたことのない気色悪さを催す。ラストの嗚咽は被害者の怨念か、視聴者の投影か。
よっちゃん

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