トニー

アクト・オブ・キリングのトニーのレビュー・感想・評価

アクト・オブ・キリング(2012年製作の映画)
4.0
非常に居心地の悪さを感じる映画。なぜこのような居心地の悪さが生じるのだろうか。
約千人の大量虐殺を行ったアンワル氏は今もなおインドネシアでは英雄と讃えられる。大量殺人者が英雄視されているというこの事実自体に居心地の悪さを感じると同時に、それ以上に彼らがそこまで非道な人間には見えないということがこの居心地の悪さにさらに拍車をかける。彼らは映画作りの最中非常に楽しげであり愛嬌がある。観客というのは主人公にどうしても感情移入せざるをえない側面を持つため、私達は彼らのおかしな行動に笑みを浮かべてしまいそうになる。後半アンワル氏が共産狩り被害者を演じることによって自分の犯した罪と向き合い自責の念に駆られるというシーン。アンワル氏に対しカメラの後方でオッペンハイマーが語る"あなたはあくまで演じただけであり、本当の被害者側の気持ちなど分からないのでは?"という言葉が突き刺さる。彼は事実上アンワル氏を裏切りながらアクトオブキリングを作り上げ、また劇中ではこの英雄達と共に大量殺人を肯定するかのような映画作りに加担する。この言葉はそんな不条理な世界に対する彼のせめてもの抵抗であったのではないだろうか。
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