尿道流れ者

アクト・オブ・キリングの尿道流れ者のレビュー・感想・評価

アクト・オブ・キリング(2012年製作の映画)
3.5
アンワル爺さんが65年にインドネシアで起きた、共産党員や華僑に対する過激な大量虐殺を自ら再現していくドキュメンタリー。この虐殺の悪意は根深く、政府や新聞社とも共同で、あくまでも正義として行われた。

アンワル爺を含む数々の加害者や被害者の証言とそのイメージ映像で映画は構成される。加害者は正義として行なっているので罪悪感はなく、自慢気に殺害方法などを語る。被害者家族が勇気を振り絞って当時のことを語っても、そんなこともあったねというくらいの軽いリアクション。ラストに挿入されるイメージ映像のなかで、まるで神のように佇むアンワル爺に対して、殺された被害者が殺してくれてありがとうと言うという強烈な自己肯定もされている。

しかし、アンワル爺は実は後悔があり、殺した被害者が出る悪夢に悩まされていた。アンワル爺は映画内で一人の役者として、殺される共産党員を演じる。そこで感じた苦しみにアンワル爺の心は決壊する。
ここからがこの映画の怖いところで、アンワル爺の見え透いた自己弁護の演技がはじまる。被害者の気持ちを理解したと言いはり、監督に被害者の気持ちはそんなもんではないとつっこまれるが、それでも言い続ける。形だけでも罪悪感を示すかのように。
さらに、たくさんの被害者が出た土地に足を踏み入れた時にアンワル爺は強烈な吐き気を催すが、いっこうに吐瀉物は出てこない。出るのは濁った唾ばかり。

ラストまでは殺戮を繰り返したアンワル爺やその周囲の人も、自分達と同じ人間に見え、悪への落し穴はどこにでもあるのかもしれないという気持ちもあったが、ラストで全てが変わった。この映画には本物の悪が映っている。そして、この人間とは同じ生き物であってはいけないと強く思った。