くりふ

ウォルト・ディズニーの約束のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【Forgive Mrs. Goff】

情報豊富で多面的、療法的な面白さ。まずは父親、また内なる父についての物語ですね。その切り口からだと原作メアリー・ポピンズに、父親バンクス氏が殆ど出ないことにまず注目かと。

そして本作は、執筆進まず経済的にも行き詰まったP.L.トラヴァースが、映画化を迫られたことで原作の出自(=自身の過去)の回想へ…と入ってゆくのですね。

メアリー・ポピンズは誰のために現れたか?というのがスプーン一杯のミステリになっています。

ディズニー一行は勘違いするわけですが当然でしょう。原作者も、脚本でバンクス氏がクローズアップされたことで内なる想いが炙り出されて来たんじゃないかと思います。事実は知りませんが、本作ではそう描いていて、そこが興味深いです。

因みに「ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯」によると、映画のバンクス氏にはウォルト自身の人物像が反映されているそうです。そして本作には、バンクス氏の口髭は実は…という秘密がありましたが、こうしたことがトラヴァースの記憶に火をつけて行くわけですね。

観客のための商業映画を実現させたい力ある制作陣の奮闘で、自分の一部であった原作を通して、原作者自身が変わらざるを得なくなる。その是非は別にして、とても面白いところでした。ここには、発表された作品は誰のものか?というテーマも内包されていますね。

映画化で危機に陥ってしまったバンクス氏を救いたいトラヴァースが、遂には記憶の中、そして今の自分を…となる昇華を伴ったクリエイティブ・プロセス。芸術の存在理由がひとつ、わかり易く描かれています。ここがまずは本作の肝だと、私は受け取りました。

他、約束についてがテーマになっており、邦題が評判悪いようですが、嘘ではないですね。終盤のやり取りで、映画化で実現することをウォルトはトラヴァースに約束しています。…叶ったかは?ですが(笑)。

むしろ、トラヴァースの父が約束したことの一面が、映画化で実現するんですよね。ここ、泣けました。映画賛歌とみても心動かされます。

その他いいところ、幾つもあったんですがう~ん…文章力なく時間なくまとまりません(笑)。以下、所感の断片を並べます。

始と終を締めるナレーションは、父が娘の詩をきちんと認めていた証だったのでしょうか?それとも娘の願望?何れにしろ、父と娘の絆で始まって終わる、本作のやさしさなのだと思います。

一方、やっぱりディズニー映画だな…と思ったのは、ウォルトに最後、治療師のような行動をさせてしまうこと。あれはちょっと英雄的過ぎるでしょう。デウス・エクス・マキナ化しとるなーと思っちゃった(笑)。

逆に、ホテルの部屋をディズニー漬けにすれば相手も喜ぶ、という思い込みを描いていたのは面白かった。自分を笑える冷静さを持つ映画でもあるんですね。またあのシーン、子供部屋を片付けるメアリー・ポピンズにも被って可笑しい。

いちばん共感した人物は、ポール・ジアマッティ演じるラルフでした。彼には作品完成という目的はないのに、陰険なトラヴァースとの垣根を取り去ろうとして成功します。ただ、そうしたかったのでしょうね。また本作で重要なのは、彼がよい父親でもあることだと思います。

エマさんは好演でしたが、実年齢60過ぎの引き籠り作家にしては美脚が過ぎると思いました(笑)。赤は絶対着ない、と断言していたのに…ピンク登場のところが可愛らしかったです。これも映画化の影響なのでしょうね。

満点とは言えず、回収が甘いところも感じるのですが、総体的にはかなり、堪能できる良作でしたよ。

<2014.4.20記>
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