Kana

大統領の執事の涙のKanaのレビュー・感想・評価

大統領の執事の涙(2013年製作の映画)
4.0
田舎の綿畑で父と共に奴隷として働いていた少年が、その眼を通して見てきたアメリカの人種差別の歴史について語る物語。
執事として国政を身近に感じるセシルと、家族や友人の心配をしながら世の中を見つめる妻、そしてその最前線に自ら飛び込んで行く息子たち。
それぞれがそれぞれの想いで人種差別という避けられない問題と向き合っていて、当時の国や人々がどんな状況にあったのか、それがどう変わっていったのか、とてもわかりやすく描かれていました。
父と息子の180度違う考え方がぶつかり合うのには、どちらが悪いとも言い切れず、きっと20世紀を生きてきた世代と、21世紀を背負っていく世代という感覚の差も大きいのだろうなぁ。
世の中を変えるには国の政策だけではダメだし、市民の運動だけでもダメ。
白人の世界では白人の理想とする黒人が持ち上げられ、黒人は白人の前で見せる別の顔を持つ。
そんなことが当たり前の状況で、どこに原因があり、誰が悪で、何から変えていけばいいのかもわからないような状況でも、いつも矢面に立ち戦ってきた人がいたんですね。
この映画を見て、オバマが大統領になったことがどれほど歴史的に大きな一歩だったのか改めて考えさせられました。

主演のフォレストウィテカーの演技も素晴らしかったです。
青年から老人までの変化がすごい。
めちゃめちゃ見覚えがあるなと思ったら、パニックルームのあの人だったのね。

アメリカで黒人差別が始まったのは1700年頃らしい。
私が生まれた頃にはまだソ連がありドイツは分断されヨーロッパ各国ではバラバラの通貨が使われていた。
この数十年で世界に劇的な変化があったなんて個人的にはピンと来ないけれど、確かに街中で日々外人さんを見かけるようになったし、スマホの普及で生活が変わった。
それでも差別も格差社会もなくなっていない。
人々の意識という、目に見えない、数字にできないものを変えるのは本当に途方もないことなんですね…。
ヘイトクライムがこの世からなくなることはきっとないだろうけど、誰もが平等に権利を主張できるようになって欲しい。
お金があってもなくても、権力があってもなくても、人望があってもなくても。

蛇足ですが、この映画のwikiのあらすじで、一切の感情抜きで最初から最後までの事象が書かれていてちょっと面白い。
ニュアンス違ってたりするけれど。
キーワードが拾えるようになってるので、歴史的な用語がわからなかった人はそこからググってみることをお勧めします。
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