春とヒコーキ土岡哲朗

スター・ウォーズ/フォースの覚醒の春とヒコーキ土岡哲朗のレビュー・感想・評価

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136分、お腹いっぱいの冒険をありがとう。

(※2015年、公開初日に観たときの感想です)

シリーズ復活。ルーカスが昔言ったものの実現しないと思っていた、9部作構想。それが、まさかの「最後の三部作」製作発表されたのが、2012年。3年半ほど待って、やっと会えた。
「STAR WARS」の文字が出てきた瞬間、あの世界と僕らの世界が、また繋がった(ちょっと曲の最初の一音が弱いと思ったが)。ちゃんと「エピソード7」と書かれていた。流れてくるあらすじは、「ルーク・スカイウォーカーは消えた」から始まり、がっつり「6」の続き。でも、その世界で、新世代たちが冒険する。ハン・ソロもレイアも導く立場にフェードアウトし、最後に登場したルークはオビ=ワンやヨーダとは比べようもない伝説人のオーラを放っているが、あくまで前時代の人。その一方、シリーズとして続いている分厚さも嬉しい。

クローン兵という言葉に、ちゃんとアナキン三部作も無視されていないことが分かり、嬉しかった。カイロ・レンがヴェイダーに憧れていることも、アナキン三部作があるからこそ、「アナキンにとっては不本意なことなのに」と思えた。何より、サーガ全体のテーマが「フォースにバランスをもたらす戦い」だと強調したが、それはルークの三部作ではそこまで打ち出されていなかった、アナキン三部作が打ち出したこと。

設定が細かいところまで詰まっているのは、気持ちよく釣られる。例えば、カイロ・レンのライトセーバーの、柄の部分から横にも光刃が出ている意味があったとわかる瞬間。刃で押し合うフィンの肩を傷つける。こいつら(悪役)、何度同じ弱点の要塞作るんだよ!キャプテン・ファズマ、次回こそ活躍しろよ!と愛のあるツッコミを入れる隙も楽しい。

豊かなキャラクター。お前らの動向が気になることが、一番の肝、責任重大。で、新メインキャラ全員が魅力的。レイ、フィン、ポー・ダメロン、BB-8、カイロ・レンの5名。レイ、健康美な外見で、見ていて気持ち健やか。アナキンやルークと同じ、砂漠の惑星から宇宙に旅立つことを望む儚げな眼差し。無名女優デイジー・リドリーが、世界をまくるぞ。フィンが、今回の感情移入しどころであり、この一本に関してはレイよりも主人公。緊張しぃ、いい格好しぃ。間違ったことをしている自分を変えたい。レイ、カイロ・レン含め、最初に素顔が出ないことで引き付けるが、特に彼がストーム・トルーパーのヘルメットを脱ぐまで、ヘルメットの奥に迷いが見える様を探る時間、楽しかった。ポー、いいやつだな!ファースト・オーダーの基地で、ポーがフィンを受け入れる早さよ。フィン「正しいことをしたいんだ」、ポー「……パイロットが必要なのか」、フ「ああ」、ポ「やるか!」。この、善は急げを地で行く軽快さが、スター・ウォーズ。ポーは死んだと思われたが、フィンと再会したときのハグ。受け入れるねぇ、最高だよ。BB-8、非常にかわいい。R2-D2と違い首の動きが自在なので、ポーが死んだと聞いて悲しみ首を落とす。感情がある!フィンのサムズアップに合わせて、自分も内部のアームを伸ばして着火するのも、かわいい。R2がませたガキなのに対して、こちらは幼児性が強い。カイロ・レンは、ヴェイダーへの憧れに囚われる。彼ほど強くなれないかもという不安もあるし、血筋ゆえ「光の誘惑」がある。善悪の葛藤という点はフィンと同じだが、彼は悩む。監督いわく、ヴェイダーの「影」。ヴェイダーがシリーズ最大の悪役で、そのフォロワー。ブチギレて周りのものを壊すのが悪としても不安定で、たちが悪くて良い。ヴェイダーが機械なのに対し、生身の彼は血が出る。血の出る腹を叩きながらレイとフィンを追い詰める様は、手負いの敵がじわじわ来る怖さ・かっこよさ。上の世代がレジェンドになっている世界で、今度は自分たちが伝説作ってやろうぜ、という熱がこもっていて、若者が自分と重ね合わせてみられる。そして、同じく、ルーカスの伝説を超えようというスタッフの思い。人間(キャラクター)が、人間(スタッフ・キャスト)と人間(観客)をつなぐ。

オマージュであり、最新ギミック。「4」と一緒!要人から託された機密を握るドロイド、田舎の若者の旅立ち、要塞攻略のクライマックス。これが面白くて世界にウケたんだから、まずこれを見ろ、と。でも、リメイクじゃなく、新しい見せ場で盛り上げる。フィンとポーがTIEファイターを奪って逃走。レイがミレニアム・ファルコンでファースト・オーダーの追っ手から逃げ、砂漠でチェイス。ハン・ソロが借金取りに挟まれてからの、化物ラスター大暴れ。タコダナでは、大きな合戦の中で、描くのは個人個人の戦い、という見せ方。スターキラー基地・雪の森での自然内ライトセーバー戦(「ハリポタ」っぽい)。そして、フォースの描き方が斬新。ここまでフォースに焦点を当てた作品はシリーズ初で、タイトルに恥じない。レーザー銃の光を空中で止める、レイの動きを止める、人に思考を覗かれるときは苦しい、など具体的で細かい。スターキラー基地による惑星破壊前の充填が、今時のSF大作っぽい。「4」のオルデラン破壊との違いは、死にゆく側の人々の描写が挟まれたこと。悲しさが強い。今作は、「4」の要素だけでなく、タラップの上で親子が話す「5」、シールド破壊からの要塞破壊「6」とも同じで、実は3作分のオマージュがこの一本でかなり済んだ。ということは、「8」はもっと「見たことないもの」になるだろう。死のにおいが立ち込めるダークな作品という点は踏襲するだろうが。

踏襲と裏切り。「NO!」、「嫌な予感がする」など過去全作に出てきたセリフが踏襲。三部作1作目の「NO!」は師匠の死で、というのも同じ。しかし、1作目で主人公がライトセーバーで戦うのは、今回が初めて。ポスターや予告でも、終始フィンにライトセーバーを持たせており、レイが使うことは完全秘密にされていた。おかげで、スター・ウォーズの主人公がライトセーバーで戦うという当たり前のことに、驚けた。カイロ・レンがライトセーバーを引き寄せようとするが、セーバーはカイロ・レンを通り越して、レイの手に。この瞬間が、この映画で一番シビレた。フィンもレイも修行をしていないので、デタラメにセーバーを振る、そのリアリティも好き。熟練者同士の殺陣は次回に持ち越し。ラストシーンは、「1」や「4」のような打ち上げ状態で終わらず、その先まで描く。今風のカッコイイ画で終わった。スタッフは踏襲のために映画を作っているのではないし、我々も踏襲を見に行っているのではないから、今後ももっと更新してほしい。

ハン・ソロの死。一作目は、師匠的ポジションの人の死、というお決まり。だが、今回がダントツで悲しかった。「1」のクワイ=ガンはそれ以前の話がないし、「4」のオビ=ワンも製作順で最初だからまだ馴染みはない。このパターンでは今回が初のお馴染みキャラの死。その加害者も、憎い敵でなく信じていた子という、悲しさ増。それでもカイロ・レンの頬に触れ、最後まで息子として愛した。カイロ・レン、いつか後悔するぞ。カイロ・レンの台詞は、一見、「暗黒面に苦しめられ、善人になりたい」と聞こえるが、「光の誘惑が苦しい。父を殺せば悪に染まれると分かっているが、その勇気が出ない。殺させてくれますか?」という意味にも聞こえる。涙や、途中からライトセーバーを強く握る=途中までは渡そうとはしていたあたり、善人になりたい葛藤も少しは本当だと思うが。青い光と赤い光が両側から顔を照らしている演出は、彼の揺らぎがある証拠。でも、赤一色になり、父を殺した。カイロ・レンの本名がベンとは、なんとも皮肉。助けてくれた偉大なベン・ケノービにあやかったのに、まさかこんな悪に育つとは。でも、お前はスカイウォーカーの血なんだ。アナキンが堕ち、ルークも堕ちかけたダークサイド。憎しみに頼る道に逃げたカイロ・レンを元に戻せるか。「9」ではきっと彼にしかできないことがあるはずだが、まず彼が救われないと。

これから、またワクワクできる。今回は、新たな特徴の惑星が出てこなかったので、次回はそれも期待。エピソード8はどうなるのか。レイはルークの下で、カイロ・レンはスノークの下で修行。フィンとポーはレジスタンスの戦士として成長を重ねる。レン騎士団が暴れるのか。参戦決定のベニチオ・デルトロはどんな役か。残された謎も多い。レイの家族と彼女のフォースが強い理由は。最高指導者スノークはどこから湧いて出たのか、彼の目的は。ルークは消えている間、何をしていたのか。今回マズ・カナタが説明しなかった、ベスピンで失われたルークのライトセーバーが彼女の下に来るまでの物語も、映画ではなくてもどこかで語られるだろうか。スピンオフは多すぎてごく一部しか目を通せないが、設定だけでも耳に入ってくると楽しいし、知らないところで話が展開していることにも意味が有る。スター・ウォーズの映画は、どこかで本当に存在している世界の一部を切り取ってぼくらに見せているもの。遠い昔、遥か彼方の銀河系で起こった事実。スピンオフで追いつけないほど物語があることで、そう思える。