ジャック

花咲くころのジャックのネタバレレビュー・内容・結末

花咲くころ(2013年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

 ジョージアの若者(と言っても14歳か…)の置かれている雰囲気が、ちりばめられた様々なエッセンスから伝わってきた。教室に飾られたジョージア出身のスターリンの肖像画が今も飾られていることにびっくり。西洋と東洋の分岐点のような位置にありながら、なぜか保守的で、世の中を引き締めるような宗教感や道徳感を失ってしまった街の状況が読みとれる。パンを買う行列には、食うものを獲得するため、列の順番を守らない。お互い疑心暗鬼、民衆を押し退けてパンを買い取る兵隊、公衆の目前で車に拉致されている少女を助けようともしない大人たちがいる。ソビエトから独立後の内戦状態にある国、生きることに精一杯、先の見えない重い空気が立ち込めている。
 音楽教室での少女たちの会話の中では、結婚後すぐに離婚させられた友人の話があったが、いわいる処女でなければ結婚できないという、20世紀末になっても、なお残っている女性差別の慣習が悲劇を生んでいったのではなかったのかとも思う。
 ナティアはクラスの中でも不正をはっきりと主張し、イジメに合っていたエカに「黙っているのではなく、拒絶する力を示す」ことを訴えるほどの意志の強い女性だった。ロカたちに拉致された後、いきなり結婚式という流れについていけなかったのは、エカだけではない。
 銃の視点から映画を見ると、モスクワに通う青年ラダは好意を持つナティアの護身のために銃を与えるが、彼がそのまま持っていたら、自身の護身につながり殺されずにすんだのかもしれない。ナディアに渡された銃は、エカに渡り、彼女には有効に働いたかのようにも見える。一方、ナディアの元に返った銃は、ラダの死の復讐として感情的に夫殺しを考えたが、エカの機転で、寸前で使われることはなかった。銃(紛争)は問題の解決にはつながらないとの暗示なのだろうか。14歳の娘に渡された銃は、暴走することなく、結果的に葬られることになる。結局、ナティアの護身のために与えた銃は、肝心なときに彼女の手元にはなく、何の役にも立たなかった。
 いくつかの手紙と煙草とソビエトのパスポートを残した刑務所にいる父親への面会を決意したセレナは、揺れ動く心の中で自分を見つけだしたのではないだろうか。この映画の中で最も印象に残ったエカの踊る民族舞踊である。豹変したナティアとこの世界への怒りに対し、エカ自身の意志をしっかりと確立する決意がみなぎったものを感じるのである。
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