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ラヴレースのNMのネタバレレビュー・内容・結末

ラヴレース(2013年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「出会った当初はとても紳士的で優しかったし魅力的だったんです」

普通の女性だったリンダが、どうしてポルノ出演や売春までさせられるに至ってしまったかを描く。
前半は、なんであのリンダがこんな仕事元気に受けてるんだろう、と納得いかないまま進み、後半にその壮絶な経緯と実態が明かされていく。

リンダは常に夫に見張られる軟禁状態ともいえる生活で、所持金もなく、友人も作れず、逃げられなかった。
出会う友人や体を売らされる男たちの誰か一人でも機転を利かせて事情を察しリンダを助けてくれないかと期待したが、残念ながら現実ではそんなことは早々起きないらしい。
助かりたいという気力があるうちに脱出が成功できたのが幸運。もしそのまま何年も経ったら諦めてしまい逃げる気持ちもなくしていたかもしれない。
確かに独身時代は母からの押さえつけが厳しかった様子はあるが、それが原因とまでは言い切れない。
ただ、子どもを詮索し干渉し縛り付けたところで、将来模範的な人間になり幸せに暮らせるというわけではない。
押さえつけたぶん反動を起こすかもしれないし、従うことしか教わらないまま悪い人間に騙されたり、危機的環境に気づいてもサバイバル経験値が少なすぎて抜け出しかたが分からない、ということも起きかねない。厳しくすれば安心、というのはまやかし。
母とてそんな経験はしてこなかったのだろう。男に裏切られ、つらい時期に自分ではどうすることもできず、周囲も助けにはならず、ただ神に祈るほかなかった。結果次の夫に出会うまで状況は改善しなかった。だから今の結婚生活は死守したい。
娘が同じように妊娠したとき、自分がされたのと同じことをした。どんなに悲しいことが知っていたはずなのにそれに寄り添わず、娘を攻撃するような態度を続けた。まるで過去の自分を罰するかのように。やっと掴んだ平穏を、娘が再び壊すのではと恐れた。頼むから夫とうまくやってくれ、いいから何も言わないでくれ、頼むから。
耳をふさいだり娘の口をふさぐのではなく、話を聞いてみようかと少しでも思っていたら、状況は変わっていたかもしれない。彼女は娘に尋問するばかりだったが、それよりもただ話を聞いてやればよかった。

父親はこれを見る限りそもそも子育てに参加していない。だからといって責任がないとは言い切れないと思う。多く参加するほうが多くミスをするのは当然のこと。

一番の要因は、本人の言う通り、邪悪な人間に目をつけられた不運だろう。
酷い目に遭いながらもその後幸せをつかみ強く前向きに生きたのが素晴らしいと思った。
助けてくれなかった両親のことも恨んでいないようす。
人を恨むほうが簡単、前を向いていきるほうが高難易度。
もちろん彼女の金を返して、謝罪して彼女の名誉を回復せしめ、刑務所に入り、賠償金を支払えとは思う。

ずっと観ているとチャック役が本当にムカついてきてしまう。
ロマーノがベルト抜いて待ってた時はスカッとした。が、その形相はちょっと本当に怖かった。クリス・ノースは悪役とかアクションとかのほうが向いていそう。

そういえば『ディープ・スロート』っていう映画、実際には観たことないなと思い検索してみたら、どうも私の想像よりはるかにハードな内容のようで、本作ではそれを何重にもオブラートに包んで見せているらしいと知った。



あらすじ
リンダの母は一人娘に対してしつけに厳しい。
もう21歳だというのに門限があり、どこへ誰と出かけてその人の職業はなにかまで詮索。

本人はいたって普通。楽しいことは好きだが、悪いことをするような性格ではない。
恋愛にも真面目だし、友人の下品な冗談にはのらない。マリファナの誘いは断る。
この日出会ったチャックにも、キスまでにして門限前に送ってもらった。

リンダは傷を抱えている。
去年出産したが、母親にふしだら呼ばわりされ赤ちゃんも養子に出されてしまった。家は厳格なカトリックだから中絶を許さなかったのだろう。
その後、一家はニューヨークからここフロリダに引っ越してきた。
母は今もリンダを全く信用しておらず、家のなかは息苦しい。
チャックは事情を聞くと、俺を夕食に招いてみろ、気に入られてみせる、と豪語。
悲しげなリンダの顔は笑顔に。

夕食でチャックは、元海兵で今はバーレストランを経営していると自己紹介。
父親を持ち上げつつ会話をスムーズに運ぶ。
チャックは目を盗んでリンダの脚を開くが、両親はチャックをすっかり良い人だと認識。

友人のパッツィがチャックと話していると、キスされそうになり驚いて身をかわす。
告げ口こそしなかったが軽蔑の表情で離れる。

リンダはチャックをすっかり信用。
この人なら本当に私をあの家から連れ出してくれるかもしれない。
そしてチャックはベッドで様々な指示を出すように。
それはやりたくないと一度は断ったが、結局口車に乗せられた。

やがて二人は結婚。
半年後、リンダの髪と服はヒッピー風に変わっていた。

そしてある日チャックが留置所に入れられたと連絡が入りリンダは迎えに行く。
事情を聞こうとすると、チャックは苛立って全力でテーブルを叩く。
リンダは慣れている様子で大して驚かない。
チャックは仕事が上手くいかず、家には金が全然ない。

チャックはリンダで稼ごうと、芸能を扱う仲間に紹介し簡単テストを受けさせる。
彼らはリンダに席を外させると、演技があまりにも下手だし体も痩せ型だという理由で、チャックに不合格を伝える。
そこでチャックはベッドでのリンダのビデオを見せた。
彼らは一転、採用を決める。

コメディタッチのハードコアポルノ映画『ディープ・スロート』の撮影が始まる。
メイクしてくれた女性は、リンダに青あざがあるのを見つけた。
いざそのシーンになると、リンダの特技に撮影スタッフ全員が魅了される。
映画制作者のロマーノもリンダを称賛したが、終始つきまとってあれこれ口を挟んでくるチャックを問題視した。
公開前に女優名はリンダ・ラヴレースと決まった。

映画は初週から大ヒット、社会現象に。
リンダは取材や番組出演に明るく元気に応じた。
実家では母親が頭を抱えている。

6年後。
地味な服装になっているリンダ。
ここへ来たのは出版社の提案で、嘘発見器にかけられながらあの日々を証言していく。

チャックには初夜から暴行を受けていた。
それが終わると、これは情熱であり愛なんだと言われ、仕方なく頷いた。
金がなくなるとチャックの命令で見知らぬ男に体を売らされた。

チャックの目を盗み、深夜実家のベルを鳴らしたこともあった。
あんなに嫌だった母親だが他に頼る人がいない。
暴力を母に相談すると、娘に原因があると決めつける。
母は未婚でリンダの姉を産み、その後散々苦労したのだった。
その姉らしき人物は今まで一度も登場していない。
母はカトリックとして離婚を決して許さず、夫に従えとしか言わなかった。

殴られたり、冷水をかけられたり、銃で脅されることすらあった。
あの撮影の途中ですら部屋に連れ込まれ暴力を受けていた。
逃げられず、行くところもなく、誰にも相談できない。

街で久しぶりに友人パッツィと会う。
パッツィはチャックがヤバい男なのではとあの時からずっと心配していた。
大丈夫なのか尋ねると、とてもそうは見えない。
しかし近くでチャックが見張っていて何も話せない。

次回の出演をチャックが勝手に決めていた。出演料は2倍らしい。
チャックはリンダの仕事や金も全て管理し、リンダ自身に所持金はまったくない。

チャックはリンダを連れマリブに移り、事務所を設立。
自伝を出すそうだが文面は全部チャックが考えていて、タイプしているアシスタントも呆れている。
チャックは儲けるどころか借金が巨額になっており、督促に来たロマーノにはリンダを映画に出し金を返すようせかす。

一人になった隙をみて実家に電話をかけた。
父は明るく出たが、映画を観てしまったようでショックを受けており、俺たちの何がいけなかったのかなと悲しむ。
リンダは言葉が出ない。

そこへチャックが帰宅しパーティーに行こうとリンダを連れ出す。
ホテルの一室に連れられると、そこには見知らぬ男が数人。
チャックは銃を持っている。金額の交渉をし、リンダを残して部屋を出ていく。
帰路、リンダは裸足で逃げ出すが転倒しチャックに捕まった。

リンダはチャックが寝ている隙に抜け出し、ロマーノにコレクトコールをかける。
そして会いに行くと、ロマーノは夫婦の借金のために早く映画に出るよう言う。
しかしサングラスを外したリンダの傷だらけの顔と涙を見て驚く。
チャックは、金も返さないし、大事なスターであるリンダに傷をつけてきた実態を知る。
焦って迎えに来たチャックを、ロマーノとガタイのいい男たちが彼を返り討ちにしてくれた。

現在のリンダの家。
制服らしきものを来て忙しく朝食を作っている。
小さな食卓には青いツナギを来た男性と、小さな男の子。

そこへ出版社から嘘発見器をパスし証言が事実だと信じるという電話が入った。
旦那は優しい口調で本を出すんだねと聞く。男の子は笑顔で母を見つめている。

本は話題を呼び、リンダはインタビュー番組に出た。
私は夫に従うよう育てられ、教えを守ったんです
あんな虐待を神は許さない
抜け出す勇気を持てない人たちにこの本が力を与えられたらうれしい
ポルノ業界で働いたのは正味17日ですが生涯烙印を押されました
でも本当の私を知ってほしい リンダ・ラヴレースとは架空の人物です
これで私はついに私自身になれます

父の退職祝いでしばらくぶりに実家に帰宅。
笑顔と涙で出迎えた両親とかたく抱き合った。
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