Jun

フルートベール駅でのJunのレビュー・感想・評価

フルートベール駅で(2013年製作の映画)
4.2
2009年元旦に起きた「オスカー・グラント三世射殺事件」を題材にした作品。無抵抗の黒人男性が警官に射殺されてしまうまでの人生最後の日が描かれている。実際に地下鉄の乗客が撮影した映像が冒頭に配されていることから、逃れようのない死に向かう物語の悲劇性はより一層強調される。

オスカーは元ドラックディーラーであり、遅刻を理由に仕事を解雇される、浮気がバレて恋人と口論する等、人格者とは言えなかったかもしれないが、人生のやり直しを図り全うな道を歩もうとしていたごく普通の青年だ。それどころか1日を過ごす内に彼の優しさが如実に感じられるシーンが幾つも差し挟まれており、何よりも娘のタチアナを大切に想っていたことは疑いようのない事実であろう。劇中において、車に轢かれた野良犬を救おうとする者は悼む眼差しを向けたオスカーを除き現れない。白人にとっての有色人種がそうだとでも言うのだろうか。オスカーを死に至らしめたものは警官の放った銃弾に違いないが、何に殺されたかを考察するにはアメリカ社会のレイシズムと向き合う必要がある。この映画は思考を巡らす契機となる。
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