劇中時代劇の松方弘樹に目を奪われた。立回りでの刀の振り方、表情の作り方と見せ方、そして存在感。どれをとってもスターのオーラを纏っている。自然に目が惹きつけられる。が、殺陣は一人では成立しない。斬られる者がいる。そんな斬られ役の中のスターが福本清三だ。
斬られ役の福本さんに主役のオーラはない。出演時間も短い。当然主役より目立ってはいけない。けれど、斬られた瞬間に輝くのだ。その一瞬のために日々鍛錬し、斬られ方を工夫する。たとえ浪人姿の大勢の中のひとりであっても、手を抜かず最大限の努力をし、「死に様」を魅せる。
そんな姿は必ず誰かが見ていてくれる。福本さんは時代劇を支える裏方であり、本作ではすべての裏方の、そして消えゆく時代劇の象徴のような存在としても描かれているように思う。
近年、海外ではTVドラマ『SHOGUN』がゴールデングローブ作品賞を、本年度の日本アカデミー賞では自主制作の『侍タイムスリッパー』が作品賞を受賞し、時代劇が見直されている。またTVドラマの劇場版では『仕掛人・藤枝梅安』の力が入った俳優陣からも分かる通り、時代劇の灯を守り、この文化を世界に向けて発信したいという思いが少なからず見えてくる。
ただ、時代劇とは言え時代の変化に完全に逆らったままでは生き残れないのも本当のところだろう。新しいファンの獲得のための新しい発想が必要なこともあるだろうと思う。本作『太秦ライムライト』では年老いた「斬られ役」が古き伝統と新しい潮流の双方に見守られるように斬られて逝く。
舞い散る桜に、また新しい春が時代劇に訪れることを願った。