ササキ・タカシ

太秦ライムライトのササキ・タカシのレビュー・感想・評価

太秦ライムライト(2013年製作の映画)
2.0
チャールズ・チャップリンの『ライムライト』は落ち目の老いぼれコメディアンのコスプレをしたチャーリーが自身の表現論を言うだけ言って最後に死んじゃうっていうナルシシズムの洪水のような名作でしたが、この『太秦ライムライト』はコスプレなどではなく、本当に時代劇で5万回斬られた斬られ役のベテランが5万回斬られた斬られ役のベテランを演じているというセミドキュメンタリーな映画なのです。饒舌にセリフを喋りまくってた喜劇王とは違い、こちらの切られ王は寡黙。まさに背中でものを語る芝居にはゾクリとするものがあり、あー言ってしまえばこれは役者・福本清三のアイドル映画だなと思いました。

しかしこの映画、どうも福本清三さんのキャラクター性とお話が上手く噛み合ってない感がありまして、世代交代によってベテランの役者がまるで姥捨て山のように使い古しにされ捨てられるという悲惨な展開には、主人公はいささか歳をとり過ぎているような気がしないでもないのが本音なのです。70歳まで生涯の仕事を全うできたのなら、それはすごいことなんじゃないのか、と。こんなネガティブな描き方をするべきじゃなかったんじゃないのか、なんて思うわけです。これが50歳60歳くらいのおじさんだったらもっとリアルな悲壮感が出ようものの、70歳ともなるとそりゃ体にガタがくるのも当たり前であってむしろ70歳でまだあれだけの殺陣ができることにばかり感心してしまい、ちっとも「古き良きものが時代によって淘汰されていく」ことの悲劇に感情移入ができません。しかも「新しいもの」として描かれている若い世代の人や彼らの作る時代劇が、わかりやすすぎるほど稚拙で滑稽なものとして漫画的に描かれているために時代劇の現状をドキュメントする上でのリアリティが欠如してしまっているのも納得がいきません。これじゃあまるで、太秦の若い人たちがアホだから主人公たちの居場所がなくなってしまったみたいな話になっちゃってるじゃないですか。主人公がドラマの出演を干されてしまう理由も安直で、どうにも斬られ役としてのダンディズムを感じさせてくれるような話の展開にならないのがもどかしい。これだけ最高な題材と役者が揃っているのに、味付けの仕方が雑に思えてしまうところが多々あったのが残念です。

それでも、ラストシーンの、あのいきなり画面がシネスコになってからのシークエンスは素晴らしく、まるで作品が変わったかのような緊張感に溢れていました。ラストカットのあの美しさ、これが映画だ、と言わんばかりのキメカットに、思わずお見事!と叫びたくなるほど。まさに、終わり良ければ全て良し。『ライムライト』に勝るとも劣らない、雄弁な表現論が伝わる最高のラストとなっています。
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