Torichock

インサイド・ヘッドのTorichockのレビュー・感想・評価

インサイド・ヘッド(2015年製作の映画)
4.6
「Inside Out/インサイド・ヘッド」

宣伝の時点で、ドリカムの音楽のミスマッチ、いやはっきり言って、究極的にダサい曲のせいで観に行くのもやめようと思っていました。
もう多くの人が知ってると思いますが、映画冒頭でドリカムの曲によるACのCMの劣化版みたいな、広告代理店よろしく!いかにもなクソPVが流れ、本当に嫌な気分にさせられ、そのあとはただただ気持ち悪いだけの意味のない短編が流れ、本気で席を立って帰ってやろうか?と思ったわけです。(そのせいか、上映中謎のむずむず病にかかりました)

が、実際のところ個人的には数あるピクサー作品の中でも素晴らしい、ピクサーで一番をあげてもいいくらい良い映画でした。

何がそんなに素晴らしかったのか、ずっと考えていたせいでレビューを書き遅れてしまったわけですが、少しだけまとまったので書いてみます。

言葉にするととても安っぽくなってしまうんですが、僕たちの心を形成するすべてを映画で観れるとは思いもしませんでした。いや、映画という枠だけでなく、それを映像や意味を持って感じることができるとはと。

まず素晴らしいのが、そのアイデア。ライリー(あるいは、僕ら)という少女の中にある、喜び(JOY)と悲しみ(SADNESS)、怒り(ANGER)とムカムカ(DISGUST)と恐怖(FEAR)。
すべての感情は、ライリーを幸せにするために、ライリーを守るために存在してる感情なんです。
そして、その感情たちは、ライリーの中に"思い出"というボールを生み出すわけです。
その思い出がどんな思い出だったかは、感情たちの色によって分けられているわけです。
そして、その感情たちが築いた思い出によって、ライリーの"性格"という島を形成してるんです。

物語は、その感情の中で悲しみだけがライリーになんの影響も与えることができなかったところから始まります。
引越しに気分が落ち込みそうになるライリー。だけど、持ち前の明るさ(喜びの頑張りによるものです)で、前向きに乗り越えようとするんです。
しかし、引越し前の喜びの思い出(思い出のボール)に、悲しみが手を触れたことで、ライリーの思い出たちが悲しみの色に染まってしまうんです。

その思い出のボールを、悲しみに触れさせないように押し問答していたら、なんと喜びと悲しみがライリーの指令部(心)から出てしまい戻れなくなってしまうんです。
喜びの不在を持ち直そうとする、怒りとイライラと恐怖。でも、もちろんそんなことできるわけもなく、どんどんライリーの心の事態は悪くなってしまう。
そして、感情たちがライリーの11年の人生とともに築いてきた"性格"の島が、崩れていってしまうんです。

喜びははたして指令部に戻り、ふたたびライリーの心に光を戻せるのか?そして、ライリーにとって悲しみの存在とはなにか?
という冒険活劇なわけです。

ふぅ...複雑や!

僕は感情をうまくコントロールしようと、常に心がけています。もちろんイライラしたりすることはあります。
でも、他の誰もが同じように一瞬一瞬沸き上がる感情を自分の中で消化し、コントロールしてると思います。

それはきっと僕の中の感情が僕の心の平穏を保とうと努力してくれてるわけです。
しかし、もしどれか一つの感情が欠けてしまったら、たちまち僕はバランスを失うでしょう。そして、積み重ね築いてきた性格や、人生に起こる嫌なことや不条理なことを乗り越える・やり過ごす心を保つ術や力さえ崩れ去ってしまい、人生を投げうってしまうかもしれない。
そうなると、今まで美しかった思い出も悲しみに変化し、自分の人生がちっぽけなものに見えてしまう。
そういうこと、僕にもありましたよ、23歳くらいの時に。

沈みきった心に、喜びと悲しみを救い、希望をもたらす存在"空想"という存在もとても良かったです。
空想というもはやがて、忘れ去られるものです。だけど、空想がなければ、僕たちの人生はどこまでも空虚なものになってしまうんではないでしょうか?

物語の最後指し示すのは、喜びと悲しみは表裏一体と言う表現。
例えば、傑作"横道世之介"は悲しみの物語ではあるのに、彼を思い出した時に訪れる喜びを描いたからこそ、美しい喜劇だったと思うんです。
つまり悲しみがあるからこそ、それが喜びになりうるという回答。
そして、そこから感情がつくった思い出のボールが、ツートンカラーが生まれ始めるんです。
それはすなわち、ライリーが一つの感情だけの思い出だけではなく、様々な思いを馳せた思い出を作ることのできる女の子になった、成長の話にまで持っていってるんですよね。

これ、単純にすごいですわ。


みなさん、この映画はあなたの心にもある(あった)話でないですか?


僕はどう考えても、他人事には思えない映画でした。
そんな他人事には思えない映画って、傑作と呼ばれる作品ではないですかね?

これからの人生で、僕は大切なものをなくすこともあると思うし、傷つくこともあると思います。
でも、その度にこの映画と"MAD MAX"を思い出して、乗り越えることができるような気がします。

すごいです、傑作です。
Torichock

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