Eike

007 スペクターのEikeのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
3.8
シリーズ第24弾は印象として「慰めの報酬」に近い印象。
映画界最強のブランド、マスタースパイ007の歴史と伝統を人間ジェームズ・ボンドの物語に融合させようという意図が見て取れる作品となっております。
ただ、その結果は少々スムーズさに欠ける、というのが率直な感想。

D・クレイグを起用して007再生の手段としてとられたのはジェームズ・ボンドのパーソナルな物語としての切り口。
その姿勢は新装開店を図った「カジノ・ロワイヤル」から明らかでしたが、遂にボンド氏の出自にまでさかのぼったのが前作「スカイフォール」でした。
結果としてシリーズでもトップクラスの成功を納めた訳ですが、あれほどまでにパーソナルな物語にするのはある種の禁じ手でもあり、若干「番外編」という印象もありました。

ですから本作の展開にはまたしてもちょっと意外な感も...。
つまり、またもやボンド氏のパーソナルな側面をドラマに仕立てている訳です(だからあまり「スパイ映画」という雰囲気が強くない)。
このアプローチも度重ねれば陳腐と化しそうなものですが、そこはさすがにヨーロッパ映画の底力。
安易に軽い印象に流れない姿勢は健在。

本作は監督のサム・メンデスの再登板を含めて随分な難産だったそうで、その製作上のプレッシャーの影響が透けて見えてしまうのは作品としてはちょっと苦しいところ。
特に後半にかけての性急な展開や決着のつけ方には作り手側の「産みの苦しみ」が滲み出ている気がします。
ボンドのパーソナル要素と新生MI-6に迫る危機や謀略、これらのミックスに無理がぎこちなく見えてしまいます。
娯楽映画ですから物語なんてどうでもいいと開き直ることもできましょうが、物語の裏に綿密な思慮が注ぎ込まれているかどうか意外と観客には伝わるものですよね。
本作に関してはちょっと雑な感が拭えず、少々勘ぐると時間が足りなかったのかもと感じました。
というのも、本作は当時007史上最も高くついた作品らしい(なんと2億5千万ドル=400億円以上)。
ここまでフランチャイズが肥大化すると、どうころんでも失敗は許されない訳で物語が破たんしないようにまとめ上げるのが精一杯であったのかもしれません。

それでも007らしいテンポやゴージャスなロケ、豪華なセットと中盤辺りまではシリーズとしてのカラーもよく出ていて嬉しい出来。
ゆえに問題はやはりクライマックス。
この結末は厳しい言い方をすると現場でシナリオを何度も書き直して仕上げたもののように見える(おそらく幾つものエンディングが用意されていた筈です)。
たぶんこの時点ではシリーズの今後に向けてのビジョンが固まっておらず、それもあってのことだと思われます。
新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開によりD・クレイグ版の007には幕が下ろされましたが新たな007とは何時会えるのやら…。
首を長くして待ちたいと思います。
Eike

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