松井の天井直撃ホームラン

ラブ&ピースの松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

ラブ&ピース(2015年製作の映画)
-
☆☆☆★★★

映画を観たならば、ちょっと頭の中で円グラフを描いてみて欲しい。

もしも準備が出来たなら、園子温作品に於けるキーワードを、その円グラフの中に当て嵌めてみてください。

あなたは何を入れましたか?

おそらく一般的な"園子温"に対するイメージとしては【エロ】【グロ】【バイオレンス】
この3っだけで円グラフの約7割は占められるのではなかろうか。

そこで『ラブ&ピース』なのですが…。

この作品に於けるキーワードは何でしようか?

恋愛? ファンタジー? 青春? 怪獣? 特撮? 反戦? 社会性? 喜劇? パロディ? 音楽(ロック)? 妄想?
一度頭の中に描いた円グラフに整理してみて下さい。
どうですか?円グラフの中に、半数またはそれに近い%を占めるキーワードは有ったでしょうか?
ちなみに私は、先程挙げたキーワードが全て均等化されて円グラフの中に入りました。
ただし、まだ100パーセントには達してはいません。まだまだ私の気付か無いキーワードが、作品の中には内包していると思っているからです。

おそらく…おそらくですが。この作品には園子温監督自身が、自分に対して世間が思われているイメージに対して

"そうじゃない、これこそが園子温だ"

…と、ハッキリと宣言したかったからじゃないのか…な?と。

何故そう思ったかと言うと。一般的に園子温監督作品から受け取られる【エロ】【グロ】【バイオレンス】が、欠片(PIECE)も見受けられなかったからです。
これは最早本人が意図的にそうしている、仕向けている…としか考えられません。

"本当の俺を見てくれ"

やはりそう思えてなりません。

『ラブ&ピース』は、監督自身が自分の中に占める欠片(PIECE)をさらけ出す事で生まれた作品の様な気がします。

だから、作品としてはかなりいびつな作品になってしまっています。どの【PIECE】も、中途半端なまま放り込まれているのです。

もしも作品全体を【反戦】に振りきりたいのであれば。クライマックスで<ピカドン>を大爆発させてしまえば、それはそれでメッセージ性が際立つし、何よりも問題定義としてセンセーショナルでも有る。

【恋愛】映画として振りたいのであれば。麻生久美子との恋愛事情を、マネージャー等の妨害によって逢いたくても逢えない話として徹底的に描いていれば、クライマックスでの<ピカドン>が発した告白はより効果が増したはず…なのに。
他にも【怪獣】【喜劇】【ファンタジー】等、どの要素にもフルスイングで振れるのに、そうはせずに均一化に努める。
だからこそいびつな作品が生まれてしまった。
これは小説に例えば、きわめて私小説に近い作品と言えるのかなと思います。

故にはちゃめちゃな映画でも有り。グダグダな映画でも有り。中途半端では有っても可愛くて、愛おしい作品でも有り。

可愛らしいですし、愛おしかったですね。
可愛くて、愛おしい。

……。

う〜ん!いかんいかん。
ここはやはり心を鬼にして
"『ラブ&ピース』は中途半端でいびつな映画だ"

…と断言してしまおう。

何だか上げては下げる様に見えるこのレビュー。
まるで千代ノ富士が寺尾を吊り上げ、土俵に叩き付けるが如くなレビューになっちゃってますが(笑)

だってもしも監督の手の平の上で転がされ、踊らさているとしたら悔しいじゃないですか。

(2015年7月7日/TOHOシネマズ西新井/スクリーン7)