Torichock

ラブ&ピースのTorichockのレビュー・感想・評価

ラブ&ピース(2015年製作の映画)
3.4
「ラブ&ピース」

園子温という人は、僕にとってはとても厄介な人。
すごい好きな作品を撮るけど、とても褒められたもんじゃないよって思える怪作も撮る。
エッジな映画を作る傍で、芸人みたいなことをしたりして、胡散臭さもあると思いきや、"時効警察"シリーズで演出をしている回は、シリーズの中でも一、二を争うほどの好きな回だったりする。
そして、今や押しも押されぬ日本を代表する鬼才だということも。

一昨年の作品"地獄でなぜ悪い"は、園子温の映画愛と人を笑わせたい・驚かし喜ばせたい、そして!井筒監督の言葉、
"映画はエロとバイオレンスや!"
を体現させる、血しぶきとエロをふんだんに使ったエンターテイナーとしてのエネルギーが、全て良き方向に転がった快作のように感じました。
それ以降、"TOKYO TRIBE"や"新宿スワン"などの実写化が続いたのも、エンターテイナーとしてのエネルギー放出に傾向したのかな?と思いました。("新宿スワン"にヤル気は微塵も感じなかったけど)

そんな園子温監督の新作。今回は、"ハンサム☆スーツ"とかに脚本を任せず、自身の脚本。しかも、長谷川博己と麻生久美子を主演に迎え、期待半分で鑑賞しました。

人は簡単に忘れていくし、欲望は止まらない。だから、何度も同じことを繰り返す。だけど、諦めない。
きっとその先に、本当に寄り添うべきものが残るから。

そんなテーマをビシビシ感じたのは間違いありません。そして、そんな話は大好物ですし、一生大切にしていきたくなるような、人間が気高く生きていく上で必要なことを、あくまで笑える喜劇で完成させたことは素晴らしいと思います。
だから、きっとこの映画に歯車がはまってしまった人は、愛しくてたまらない映画になると思います。

実在感ではなく説得力のある、頭のおかしい人のキャラクター演出はさすが。そして、それを体現する長谷川博己さんの作り込みもすごかった。
園子温監督の映画のすごいところは、映画を見た後だと、それを演出された俳優さんが、その映画内のキャラクターとイコールな人間に見えてしまうくらいところだと思うんです。
・長谷川博己さんはきっと、自惚れ屋の基地の外の人
・でんでんはきっと、怒らせてはいけない人
・村上淳はその筋の人
といった具合に。

だけど、僕にはこの映画の歯車は、ずっと噛み合わないタイミングで回り続けていた。
映画のテンポが、どうしても自分のライド感より一歩遅く感じてしまった。ところどころが少しずつ冗長に感じるというか。
地下のファンタジーパートの部分が特に。役者さんのパワーとその演出が、とてつもないエネルギーを生むと思ってる園子温監督の、役者不在のシーンがどうしても。
お家に帰りたい→まだだめなんだよ、もう少し待ってね→あと、どれくらい...のやりとりが、ちょっと多かった気がするんです。で、ここで鈴木良一パートのすっ飛ばしテンポ感が減るというか。その証拠に、序盤の鈴木良一パートはめちゃ気持ち良いテンポでした。
それでも、そこらへんの方がよりかはずっと見れるルックは流石なんですけどね。

再度言わしてもらいますが、つまらなかったわけではないし、パワーでねじ伏せてくるような力強い作品だったと思うし、言葉にはできない感動はちゃんとありました。
それは園子温監督が、本作を自身の魂の集大成というだけあるのか、たくさんの要素がぶち込まれているし、それを飲み込めなかった僕という本当に好き好みの問題です。

本作を観て、今後も園子温の映画は通うんだろうということは分かりました。
リアル鬼ごっこ楽しみです。
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