みゅうちょび

ジャッジ 裁かれる判事のみゅうちょびのレビュー・感想・評価

ジャッジ 裁かれる判事(2014年製作の映画)
3.9
チームダウニープロダクション記念すべき第一弾。キャスティングも選りすぐりで、ロバート・ダウニーJr.本領発揮の演技は流石だなと思わせてくれる。
他に、本作の演技でオスカーにノミネートされたロバート・デュバルやビリー・ボブ・ソーントン、ヴェラ・ファーミガなどなど、このキャスティングなら出演者達も張り合いがあるだろうと思う最強のキャスティングだと思った。

法定物と家族のドラマを盛り込んで、若干お腹いっぱい感はあるが、軸は飽くまで家族間の人間ドラマ。しかし、きちんと法定物としてのサスペンスも楽しめるという優れもの。これを中途半端と感じるか、得したと感じるかでも評は分かれるかもしれない。
わたしは、後者でした。

家族と折り合いが悪いと感じている人は是非1度見てみてはどうだろう。実は、わたしもそういう1人。非常に胸に響くシーンが沢山あり、ロバート・ダウニーJr.演じる主人公ハンクの気持ちが痛いほど伝わって来た。主人公だけでなく、登場人物それぞれの心情表現が素晴らしい。

1人故郷を出て(メタリカのコンサートの夜に恋人との約束を放り出しそのまま町を出てしまった)都会でやり手の弁護士として成功を納めながら、家庭は崩壊寸前のハンク。妻とは、幼い娘の親権を主張しあっている。
ある日、突然の母の死で、望まずも故郷に帰らざるを得なくなる。父は地元で長年判事として信頼され、今だ家族の長としての威厳を保っているがハンクとは折り合いが悪い。

親族や知人達が集まる席で、何年も会っていなかった息子とは軽い握手のみ、隣人達には肩を抱いて来てくれたことの礼を言う父。朝起きれば兄弟たちと父は既に近くのダイナーで朝食を摂っているのに、自分だけが出遅れる始末。兄弟たちもべつに意図して仲間はずれにしているわけではなく、長年ともに暮らす物達の習慣がそこに不在だったハンクを孤立させるのは自然なことなのだと思える。こういう風に、気を遣わない家族だからその行動が冷たく感じるっていうこと、あるな〜と思う。

長年連れ添って来た家族と、1人離れて都会で悠々自適な生活をしてきたハンクのなんとも足並みの揃わないぎこちないやりとりが、非常に自然に、時にユーモラスに「あるある〜」と凄く共感できる。

母の葬儀が終わり、父とも再び喧嘩別れのような形で故郷を去るハンクだったが、飛行機の離陸間近に、兄からの電話で父が殺人事件の容疑者として連行されたと聞き引き戻されるはめに。ところが、父は、自分の弁護をハンクではなく、経歴も浅い町の弁護士に依頼してしまう。

今回のロバート・ダウニーJr.演じるハンクは、正に彼のために有るような役どころで、子供の頃から、父に自分を認めて欲しいという満たされぬ欲求を抱え、いい年をした大人になった今、年老いて弱り果てた父に声を荒げてその思いをぶつけるなど、見ていて胸が痛くなる。この役は、もしかしたら、ロバート・ダウニーJr.がアイアンマンなどの役で得た新たな人生とさらなる飛躍のために、彼のトラウマを乗り越えるために用意されたのかもしれないとさえ思ってしまった。(考え過ぎだろうけど…^^;)

とにかく、本作は、こういう家族の確執をかなりリアルに描いており、見ているこちらが、そろそろわかりあう頃かな〜なんていう期待をことごとく裏切ってくる。アメリカ映画では珍しいくらい。

それでも、そうやって迎えるラストはわたしの心の奥の方でじんわりとしみじみとした感動を呼んで、なんとも言えない深い余韻を残してくれた。

他の人間関係を少し面白おかしく複雑にし過ぎて分かりにくい部分はあるものの、そこは作り手のサービス精神かなとも思える。

本作は、多分、これからも繰り返し見たくなる大切な1本になった。

因みに、ロバート・デュバルは体調を崩した父を息子が介護する場面で、便を垂れ流すというシーンにかなりの抵抗を示したそうだが、監督に説得されて承諾したらしい。
あのシーンは非常に演出が絶妙で、強烈なシーンでありながら自然にうまくまとめられていて、とても重要なシーンだと思う。
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