【ロルフ・デ・ヒーアが紐解く槍投げ部族の戦いとは?】 先日、第73 回ベルリン国際映画祭コンペティション部門のラインナップが発表された。『すずめの戸締まり』がまさかまさかの選出。『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりに日本のアニメーション作品がコンペティション部門に選出されて、日本のメディアは新海誠一色となっていた。しかし、今回のコンペティションはそれ以外にも面白い作品がたくさん選出されている。私が一番嬉しかったのは、ロルフ・デ・ヒーア新作『The Survival of Kindness』の降臨だ。ロルフ・デ・ヒーア監督といえば、監禁もの『アブノーマル』がカルト的人気を博している。しかし、ロルフ・デ・ヒーア作品を追っていくと、『アブノーマル』はフランク・ダラボンが『ショーシャンクの空に』を撮るくらい異例な作品となっている。異例とはいっても、彼の初期作品は子ども目線の物語を紡ぐ傾向があり、子ども映画『ヒコーキ野郎/スカイ・キッド』、倦怠期夫婦を子ども目線で描いた『クワイエット・ルーム』、そして監禁されて実質精神が子どものまま育ってしまった男を描いた『アブノーマル』といった形で並べると腑に落ちる。丁度、『ショーシャンクの空に』がフランク・ダラボン×スティーヴン・キングで繋がっているように。ゼロ年代以降は、オーストラリア原住民をテーマにした作品を多数作っており『十艘のカヌー』は第59回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞している。最新作の『The Survival of Kindness』はどうやらコロナ禍を抽象的に描いたような作品らしく、砂漠で死の覚悟ができていない黒人女性が疫病と迫害から逃れるように都市部へと流れ着く物語になっている。ひょっとするとコロナ禍においてオーストラリア先住民が都市部へと流れ着く状況を映画化した作品なのではないだろうか。