くりふ

紙の月のくりふのレビュー・感想・評価

紙の月(2014年製作の映画)
3.0
【Femme Fataleじゃない】

キネ旬シアターにて。原作とドラマが面白かったので行ってみたら、宮沢りえのための映画でした。彼女の存在感はすごいのですが、この物語が持っていた怖さや危うさは薄まり、スイーツでぬるかった。

主題歌は「Femme Fatale」だし、横領犯・梅澤梨花を、昏くとも憧れを含めたスーパーヒロインに仕立て上げようとしていて何だかなー、と冷めてしまった。

法的なモラルとしてよくない、なんていうつもりは無論ないのですが、この流れでは、梨花の前途に可能性を見出すような描き方は嘘くさい。

また嘘の自分真の自分みたいなペラい葛藤をわかり易く立てるけれど、夫婦生活に愚痴る自分も横領する自分もバレて逃げる自分も真の自分でしょ。40過ぎたオバサンがそんなことで浮遊しないでくれよと(笑)。

ピコピコふわりなlittle moaのBGMが、より糖分上げるので付き合いきれなくなってきます。

そんな梨花ですが、犯罪の先で「どこまで行けるか?」に関し、原作と違った展開があるそうで心理的な大ジャンプがあるかと期待していたら、行き場失くしてフィジカルに横滑りするだけでした。

確かにあの姿は美しい。でもそこにフォーカスしてもさ、その先は朽ちるだけで何もないからね。あの足掻きに希望を見出さなきゃいけないとしたら、あまりに空しくないか?

梨花の「いっしょに行きますか?」で『テルマ&ルイーズ』やるかと思ったら最後までせこいんですね。そもそも、あそこからどうやって降りたの?それに警備員速攻来るでしょ。逃げ足速すぎ…ミルカかあんたは!

それでも逆に、スイーツなつくりに辛うじて、リアルな楔を打ち込んでいたのはりえさん本人の存在感。これは狙ったようですが、カット毎に顔が違うのに驚き、楽しみました。

時にピカソの泣く女、時にバナナマン日村(笑)。自己が希薄化するが軽くはなく、業のような闇をどこか匂わせている。

勿体ない!このシナリオではない人物で見たかった。中身と言動にギャップもありますね。原作にはない、女を武器にするところなんて安っぽくて、どこがFemme Fataleなんじゃいと。

要素としては興味深いものが色々詰まっている、今ならではの注目作だとは思います。が、私には歯ごたえがなく、ずいぶん退屈でした。

あと、主題歌として相応しいのは「Femme Fatale」ではなく、「let it go」だとも思いましたね。

<2015.2.17記>
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