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紙の月のyukoのレビュー・感想・評価

紙の月(2014年製作の映画)
4.8
再鑑賞だけど、やっぱ引き込まれるなぁ。

序盤から、崩れていく未来を予感させる緊張感が漂っていて、最後まで息つく暇もない。人って、人としての倫理を1度無視したらどこまでも落ちていけるんだな。その見えない一線を引くのは自分の心しかない。平凡な人生だってなんどかは誘惑との葛藤があったりするもんだけど、たいていの人はそこで手を引っ込めるだろう。皆手に入れたもの以上の負債を払わなきゃいけないことを知ってるから。

リカという人は、少女時代の描写をみても、人としての倫理のものさしがどこか狂っていて、道の踏み外しかたが堂に入ってて大胆。利己的だし物の考え方が単純すぎる。信念ってそういうものなんだろう。自分では善意だとみじんも疑ってないのだから。与えることが善意だと教えられ、施すことが快感になってしまった彼女が、その善意に狂わされていく様が全編を通して描かれている。

始めから全部にせものだと分かってた。だってそういうものだから。。。とちゃんとわかってるのに、止められない。

象徴的に真逆の存在が小林聡美。まっとうに生きてきた彼女が、リカの前でみじめに見えてしまう理由がわかる気がする。それがこの映画の狙いなのかな。自分なら決して選ばない方のシナリオを主人公がやってのけるのを、映画を通して疑似体験できる爽快感。

つまらない毎日、変わらない仕事、平凡でものわかりのいい自分。何かとマイナスに取られるワードだけど、長いこと大人をやってると、そういうところにちゃんと誠実な幸せがあるって知ってる。ニセモノじゃなくてね。

小林聡美みたいな人生はもう知ってる。だからこそ、リカの自由さ純粋さ身勝手な善意に、選ばなかったもうひとつの人生に引き込まれるのだろう。

この映画の肝ってラストの二人の会話に集約されてると思う。振りかえって、「一緒に行きますか?」て問われるところ。なんか響いちゃったなぁ。

宮沢りえってやっぱ凄みがあって、目が離せない。他の俳優もみんな上手くて映画に説得力を持たせてる。キャスティング大成功だと思う。

脚本も、映像も、俳優陣も、バランス良かった。角田光代の原作と、パーマネント野バラ、腑抜けども~を撮った吉田大八監督の相性のよさ(^^)
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