菩薩

胎児が密猟する時の菩薩のレビュー・感想・評価

胎児が密猟する時(1966年製作の映画)
4.3
「母さん、あんたは何故私を産んだ。そして私はこう苦しむんだ。」

これはきっと復讐劇、楽園であった子宮から地獄である社会へと産み落とされた人間の悲しき叫び。妻に似たその顔を持つ女を、縛り付け、鞭打ち、剃刀を這わせる。徹底して嬲る、痛めつける、罵声を浴びせる、調教する。母は僕を外の世界へと追いやり、そして自分は逃げ出した。妻は子を産みたいと俺を捨て、外の世界へと逃げ出した。だからお前は逃がさない、ここが僕の胎内だと、究極のマザコンに根差した病的なサディズムが猛威を振るう。妻が母になり子を産み育てる、それが「自然」とされる人間社会に対する犯行声明、悲劇の連鎖を断ち切るための不条理な暴力、極めて不快な、それでいて偏執的なか弱き男(丸木戸定男)の暴走は、強靭なる女性の母性と聖性の前で敗北を喫す。男は力で女を抑えつけ、型にはめ飼い慣らし、そうでもしないと己の社会を保っていられない、若松孝二が我ら男性に突きつけたのはそんな情けない現実であり、女性に対する全面降伏勧告なのだと思う。アヴァンギャルドな映像に足立正生の完璧な脚本、グラサンかけて鞭を振るう山谷初男は正直タモリにしか見えない…。
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