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ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦のTorichockのレビュー・感想・評価

5.0
「NEXT GOAL WINS/ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦」

自分たちを今でもどっかで強いとか思ってる節がある島国の連中は、この作品を見て真剣にチームというものを考えたほうがいい。


どうこうとか真剣に生きる人の人生は、ドラマチックだと思います。
真剣に何かを勝ち取りたいと思っている人の人生には、ドラマのような奇跡と、勇敢に戦う戦士たちに喜びの雨が降り注ぐべきだと思います。

この映画は、米領サモアの代表で0-31で敗戦を喫するようなFIFAランキング最下位の弱小チームが、Once againよろしく、勝利に向かってなんども立ち向かう姿を映した、ドキュメンタリー映画なんです。

もちろん、大好物の負け犬達のワンスアゲイン映画ですけれど、この映画はドキュメンタリーなので、当事者たちの心境や夢やドラマがたくさん濃縮されているんですよね。それだけでなく、カットインやサッカーシーンの撮り方はもちろん、彼らの情報の出方、音楽や映像の編集も情緒豊かで、飽きのこない凝った作りにもなっていて、ドキュメンタリー映画として非常に完成度の高い作品だと思うんですよね。

米領サモアという土地柄どういうところかは分かりませんが、サモアといえば、僕の中では"サモアの怪人、マーク・ハント"ですが(←分かる人だけ分かれば良い)、国はサッカーだけしていれば良い環境などは持っていないので、みんなそれぞれの仕事の合間を縫って練習をしているんですよね。もちろん、プロの選手もサッカーが好きでプロサッカー選手になったんだろうけど、彼らにとってサッカーは金になるものではないし、世界最弱で有名という惨めな評価でありながら、彼らを突き動かすものが、サッカーが好きという次元を超えているのかな?と感じました。
"百円の恋"でも書きましたが、勝ちたいと思うもの、負けたくないと思うもののためにがむしゃらに闘える人間は、それがたとえどんなに滑稽だったとしても、美しいですよね。

彼らはオランダ人監督のトーマスを誘致して、彼の指導のもと、どんどんサッカーの技術を向上させていくんですが、その過程があまりにもドラマチック過ぎる。それが作られた物語ではなく、事実なのだからたまらない。
さらに、何か一本の幹があるように、彼らは彼らが信じる信仰のもとに理念もあって、それが人知を超えた力の源ではなく、当たり前のように根付いてるんですよね。だから、オランダ人のトーマスがこの米領サモアに訪れても、本当に家族のように見えるんです。
また、米領サモアでは、男と女ともう一つの性が認められています。ジャイアはその一人なんですが、普段の振る舞いは完全に女性で、彼はどこまでも美しく愛らしく女性的なんですが、ホイッスルが鳴った瞬間に、彼は男でも女でもなく、戦士になるんですよね。そしてこの家族たちは、もしジャイアを傷つける奴がいたら、俺たちの大切な妹を命をかけて守ると言い切るんですよね。
そんな、日本ではなかなか考えられないことかもしれないことも、
彼らは、彼らの信じる信仰のもとで、好きなものを通して家族を築いていくように見える。その姿は、本当に感動的で温かい。
そしてその魂が、世界最弱というレッテルを貼られてもなお、立ち向かい続ける彼らの生き方なんです。

"我々はサモア戦士の末裔なのだ。どんなに負け続けても、立ち上がり戦い続けるだろう"

そんな言葉を語る選手がいました、胸が震えました。

僕はサッカーの楽しみ方をよく知りません。超のつく有名選手くらいしか知らないし、日本が負けたって別に何も思わないんですけど、こんな風に好きなものを一所懸命やってる姿を見ると、サッカーってすごいなって思います。

人生をかけて、夫婦で旅を出来るくらい情熱を傾けられるものがあるトーマス、自分の性を越えて一つになれたジャイア、世界一笑われたゴールキーパー・ニッキー、そしてそれぞれの想いを馳せボールを追いかける戦士たち。


ただこの98分の映画が、日本代表戦よりも、今まで見たどんなサッカーの試合よりも興奮したし、感動しました。フォーメーションがどうこう議論したりするのも大いに結構、渋谷のスクランブル交差点で大暴れするのも良いでしょう!でも、こんな気持ちで応援出来る素晴らしいチームがやってるスポーツは、さぞかし素晴らしいんでしょう、本当に感動しました。

98分なんかあっという間の素敵で愛しい、家族と戦士を描いた作品でした。
去年見ていたら、ベストかもしれない。
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