MissyEllio

HUNGER ハンガーのMissyEllioのレビュー・感想・評価

HUNGER ハンガー(2008年製作の映画)
4.3
無知無教養で事実誤認甚だしい本や解説が目に付くので、ちょっと高カロリーな文を。

ざっくりと。IRA活動家ボビー・サンズが、政権への抗議として行ったハンガーストライキを、芸術的かつ、拍手を贈りたくなる長回しなどを駆使し、感覚に訴えかけるような描写がす素晴らしい作品。

根本的に、僕ら日本人には精神上(宗教、地理、政治的)真の理解は難しい、北アイルランド紛争70年代の“一部分”の話。

北アイルランド紛争ってなぁに?とか、70年代の労働党や保守党の性格? シン・フェイン? IRA? コレでは正直、無理。

鑑賞前に、時系列だけでも追った方がいい。いや、むしろ妙な解説や結論めいたモノは受け取らず、ただ事実だけ目を通しておけばいいですよ。

サッチャーの苛烈な政治姿勢が、この映画からも漂い、下手すればサッチャー政権が招いた結果の事件と思われるが(トリガーではある)、この政策路線(IRA撲滅)はサッチャー政権前の労働党時代からのモノ。お間違いなきよう。

ハンストで死んだ10人のIRAメンバーとINLAメンバーや、死ななかった人たちは、何に抗議したか。刑務所での“政治犯”として扱われなかったこと。

ここら辺で妙な解説や記述が目に付く。いいですか、これはサッチャー批判とかIRAの、もっと言えばボビー・サンズ英雄視を描いてるんじゃない。

作中にもサッチャーが “There's no political violence.”と述べた有名な話が出ますよね。それ以上でもそれ以下でもないんですよ。

其処にある時代の価値を、ただ実直に映しているんです。テロと革命がその後の時代により、評価が二転三転するように、正義と弾圧、権力による権益の関係などなど、正当性の所在は不確実性の上に立っているということが肝心要ですよね。

時代・境遇に憂い、極限まで闘った彼らと、その時の正義を守ろうと強権的に振る舞った為政者を、どちらにバイヤスをかけるともなく、提示したこの作品。僕はとても印象深いです。

(どっかのバカな首相に……観ても何も分からないか、バカだから)

S・マックイーンが小憎たらしいのは、終盤のさり気なく差し込む、痩せ細ったボビー・サンズと1枚の羽根の対比。鳥肌が立ちましたよ。なんと情報の多いカットでしょうか!

因みに、IRAは形を変えて現在も活動中。2000年代の初頭にも、1度大きなテロがありましたね。

まぁしかしどんな主張でも、やはり暴力によって成し遂げようモノには、また暴力がそれを覆い尽くすんでね、なんとか建設的に話を進めてほしいと願う今日この頃でした。
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