イチロヲ

四畳半襖の裏張りのイチロヲのレビュー・感想・評価

四畳半襖の裏張り(1973年製作の映画)
5.0
東京山の手の花街に従事している芸者(宮下順子)が、酸いも甘いも噛み分けた上客(江角英明)と褥を共にする。大正時代の花柳界を舞台に、老若男女の色模様を描いている、日活ロマンポルノ。三大発禁本シリーズ。

「人間の生きるための営み、そのものがエロスである」とする、神代流哲学の金字塔的作品。宮下順子の褥の合間に、他のエピソードがカットインする形式になっており、芸者と客人の種々相が淡々とした雰囲気の中で描写されていく。

個人的に涙腺を刺激させられるのが、芸妓(丘奈保美)と幼馴染の青年(粟津號)が、出征直前の交合に及ぶシーン。まったく色気のない野獣のような行為だが、「死」を実感する者同士の性的衝動をリアルに表現している。

新米芸妓役の芹明香が、周囲の人々を俯瞰で眺めて、「結局、人間ってこんなものね」と軽い口調で吐き捨てる。これは、他人を軽蔑する言葉ではなく、生きるための糧を指摘する言葉。もはやポルノ映画というよりも、文芸映画の領域。
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