犬を飼っている人、または以前に飼ったことのある人には、心揺さぶられずにはいられない作品だと思う。
私は犬を飼ったことはないが、東京下町に住んでいた頃、隣家の子供のいない夫婦が犬を飼っていて、よく遊ばせてもらった。
その犬は、この作品に出てくるゴールデンレトリバーのような犬ではなく雑種だったが、人懐っこくて直ぐに「友達」になった。
この作品は、人の犬との間に結ばれる絆を詩情豊かに描いていく。
ヒロインのワンチェンはファッション雑誌編集者で、主夫のようなハオジエと同棲中。
そんな二人の所にゴールデンレトリバーのリラがやって来て、一緒に暮すようになる。
犬をはじめとしてペットを育てるには、子供を育てるのと同じように愛情を注ぎ、きちんと生活出来るように躾けなければならない。
この二人と一匹との生活は、初めて親になった夫婦同様に育児ノイローゼになってしまうが、やがて賑やかだが、仲睦まじい日々となっていく。
だが幸せな日々は長くは続かない。
キャリアアップを目指すワンチェンは社内で重要なポストを与えられたことにより、益々私生活より仕事を優先させてしまう。
そんな彼女に寄り添い、蔑まれながらも主夫として彼女を心身共に支えるハオジエに同情したくなる。
やがて日々の擦れ違いから二人の間の溝がどんどん深くなる中で、リオに重い病魔が襲い掛かる。
人は大事なものを失ったり、失いそうになった時に初めて、それが掛け替えのないものだということに気付く。
愛するものとの何気ない日常、お散歩や「お手」で触れ合う一時間、もっと細かく一分間が、どれ程愛おしくて大事なものであるかを、本作は優しい光に包んで描く。
この作品で印象的である、ヒロインとリラが「ハイタッチ」のような「お手」を交わすシーンが、何時までも心に温もりを残します。