イルーナ

非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎のイルーナのレビュー・感想・評価

4.4
人は誰でも心の中に「非現実の王国」を持っている。それは現実世界を生きるための、心の拠りどころ。
しかし、それを実際に表現しようとしたら?大抵は黒歴史として片付けられたり、それが上手くいっても「誰かに見せて褒められたい、あわよくば売れたい」という承認欲求に振り回されるもの。
ところがヘンリー・ダーガーという老人は、ただひたすら自分の世界に向き合い、壮大極まる「非現実の王国」を創造していた……

創作をした経験がある者にとって、ダーガーの生き方は胸打たれるものがあります。
現実世界では徹底的に貧しく孤独(むしろそれを望んだ節すらある)だった彼。しかし生涯をかけて、自分だけの作品を作り続けた。そういう意味では、これほど豊かな人生はないのかもしれません。
作品の世界は一見、おとぎ話のようだけれど、そこにあるのは美しさや愛らしさだけではない。目を覆いたくなるような、子供たちの大虐殺。両性具有の少女たち。
全ての夢はもう一つの現実であると言われるように、夢は現実から生まれる。
自分の人生でどうしても得られなかったもの、失ってしまったもの。そうした痛みが作品の中で炸裂する。

「信じられるだろうか。たいていの子供たちと違い、私は大人になるのが嫌で仕方なかった。大人になりたいと思ったことは一度もない。いつも年若いままでいたかった。いまや私は成人し、年老いた脚の悪い男だ。なんて事だ!」

それでも、創作し続けることを死の間際までやめなかったダーガー。その生き方が、胸を打つのです。
イルーナ

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