くりふ

リヴァイアサンのくりふのレビュー・感想・評価

リヴァイアサン(2012年製作の映画)
3.5
【おさかな地獄】

イメージフォーラム・フェスティバル2013にて。

荒ぶる海で狩りを続ける漁船の内実を活写したドキュメンタリー。が、撮影は極小カメラでのみ。するとこうも世界は違って見えるのか!という素朴な視覚の驚きが、本作の肝ですね。

近視眼のみの視点は、船内のニッチに好んで入り込み、と思えば、海面と海中の狭間、荒波に揉まれ、溺死しないと見られぬような、苛酷な自然の貌を突きつけます。母なる海、なんて呑気は忘れますね。

ハーバード大の感覚人類学研究所に属する、映像作家兼人類学者、の二人が作ったそうで、87分ですが、体感的には所々、ダレました。60分程度でまとめて欲しかったですが、これは個人的な感覚です。

強烈なのは、魚の視点になることですね。要は漁船ですから、捕まって殺されて、バラされてゆく様が皮膚感覚で眼前に広がる。

大量の死体と共に、水の中に漂ったり、捨てられる生首を見送ったり。荒波に注がれる血のシャワー。そんな一方、返されてゆくヒトデ群が、赤い星の如く海中に舞う奇妙な美しさ…。

そんな調子だから、魚への食欲は失せるのですが…ホタテだけは美味そうでした(笑)。

ウミドリにハメドリするほど寄った画も面白く、魚を求めて船内で、迷子になる様を横付けして追ったりする。鳥さんの不安、伝わります。

漁師の生態はさほど負いませんが…いきなりシャワー覗くなよ!(笑)見たい人いるのか?でも逆に、刺青の正体がわかり笑えたりもします。

漁船とはなにか?と問われれば、本作でのそれは殆ど、鎖ですね。チェーンの烈しいうねりが、極小カメラだと暴力的なまでに映り込む。それを巻き取り、延ばすモーターのうなりは、悲鳴にしか聞こえない。

そして一番は故意か偶然か、天地が逆転し海上と海中とを飛び交う画。これは圧倒的でした。肉眼視は不可能な映像のスペクタクルを堪能!

タイトルは、魚にとっての海の怪物、という意味だと思います。大量虐殺船ですよね。でもこのお陰で、我々も生きていけるわけで。そんな意味で、みれば自分に還ってくる映画でもありました。

<2013.5.4記>
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