ひこくろ

0.5ミリのひこくろのレビュー・感想・評価

0.5ミリ(2014年製作の映画)
4.5
タイトルが出てくるまでの物語がとんでもなく強烈。
人の醜い部分や汚い部分を淡々と受け入れなければならない介護者の現実。
一方にある、自分の醜さをさらけ出し、無力さを痛感しながら、他人にすべてを任せなければならない介護される側の苦悩。
そして、追い込まれていく家族の姿。
こういったものがすべて凝縮されて、一気に描かれていく。
ここでバックに流れる音楽が陽気で軽快なクラシックというのが、過酷な現実を余計に引き立てていてえぐい。
しかも、この壮絶な導入部は、入り口でありながら、その後の映画のすべての象徴でもあり、ラストへとつながっていく伏線でもあるのだ。これがすごい。

映画に出てくる老人たちはみな、醜く、歪んでいて汚い。
こういう風にはなりたくない、と思わされるし、老いることの残酷さも突きつけてくる。
でも、そんな老人たちに対して、主人公のサワはかまわずずかずかと踏み込んでいく。
老人たちはサワを拒絶し、抵抗するが、サワはそれも気にしない。
あくまでも一人の人間として対等に向き合ってくるサワに対して、やがて老人たちは本当の姿をさらけ出す。
その時になって初めて観ている側も気づくのだ。
彼らが醜く見えるのは、「老人」という括りで見ているからで、一人の人間として見るなら決して醜くなんてないことに。
知らないうちに、彼らが、尊厳を奪われ、孤独に追いやられていたことに。

サワは、図々しく、厚かましく、ずるくて、エロくて、小汚い。
でも、同時に、人を尊敬しているし、根本に人間的なやさしさの本質のようなものも持っている。
すべてひっくるめて、とても女性的なのだ。それを安藤サクラが渾身の演技で見せる。
これほど不細工で、惨めで、なのにやさしさの塊のような役を、生き生きと演じた彼女に驚く。
もし、現代に天使がいるとするなら、こんな人なんじゃないかと思わされた。
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