【鑑賞者の足跡】79点
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監督:ジョシュ・ジョンソン
製作国:アメリカ
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:94分
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面白い。良作。思えばVHS、通称ビデオテープをお目にかかる機会は随分減りました。TSUTAYAなどのレンタルショップでもかなり大きい店舗以外ではその片鱗すらなく、改めて懐かしさと切なさを感じました。僕が中学生くらいの時まではたしかにVHSが主流でした。ところがDVDという次世代メディアが登場してしまってからは、その居場所がなくなってしまいました。今作はそんなVHSの魅力を、数々のマニアのインタビューによって伝えたドキュメンタリー作品です。
そもそもVHSって、日本のビクター社が開発したメディアだったのですね。いわゆるビデオテープですが、当時はソニーが開発したベータマックスと激しい争いを繰り広げていた模様。僕なんかからするとベータマックス、、何だそれ?といったところなので、ビデオテープ=VHSという図式が頭の中に染み付いていました。しかし、VHSがその地位を確立するまではそうではなかったようなのです。流石にVHSとなると僕も知っていまして、たしかに懐かしい。「巻き戻し」、「○倍録画」「上書き録画」などは最早過去の言葉になりつつあります。特にレンタルした作品は、巻き戻しをして返すのがマナーというものは、今の中高生あたりの人には通用しないでしょう。まさにジェネレーションギャップを感じてしまう要素です。というかそもそもVHSのあの長方形の形状すらあまり認識されていないようです。マニアの人が片腕にビデオテープの刺青をいれるのですが、若者がそれを見たら、何それ?と言われるレベルらしいのです。
僕は映画はなるべくソフトをレンタルするか購入、はたまた映画館で見るようにしていますが、確かに現在の環境ではネットで見れてしまうということもあるのですね。皮肉にも今作はAmazonプライム・ビデオで鑑賞したのですが、ジャケットを確認せずに、ただただ中身だけばーっと見る人が増えてきたということなのですね。これは、VHSマニアからは理解し難い現象のようでして、これは僕もわからないこともない。特に購入して見るというのも、発掘してお金を出してゲットした!という楽しみ方があるのです。そしてそれを棚に並べて眺めることによって、「ああ、自分はこれまでこういう作品を見てきたんだな」と実感出来るのです。これは本にも同様のことが言えます。昨今は何でもかんでもネットで鑑賞、はたまたネットを通じて書籍を読むということが流行してきていますが、これはやはり悲しい現実と言わざるを得ないでしょう。何故なら本にしろ映画にしろ、その実物を実際に手に取り、それを並べることで自分の知の蓄積を実感できるからです。
実はDVD化されていない映画、つまりVHS版にしかない映画がこの世にまだ数千本あるそうです。VHSを再生するビデオデッキがない今、こちらとしては少しでも多くの作品をDVD化してほしいところですが、今作に登場するマニアたちはそれを望んでいない模様。しかし、このマニアたちは気づいていないそうです。いや、気づいているがなるべく信じたくないのかも。なにかというと、VHSは数十年経てば再生するのも難しくなってしまうということ。DVDも同じことが言えそうですが、映画の保存の難しさについても言及されていました。転じて何かを保存し、後世に伝えるということはかくも難しいということが如実に伝わりました。特に映画は、何かを媒体としないと再生できない代物であるため、保存が著しく難しい。映画が誕生してまだ百余年ほどですが、果たして黎明期の映画を数百年後に鑑賞することが出来るのか?これも実に気になる事項であります。
VHSに愛着がある人ほど、今作の内容はまさにあるあるでして、共感できる部分もあるかと思います。映像にノイズが走り出したらエロいシーンが始まるというのにも笑ってしまいました。それは、みんなが同じ場所を繰り返し見ているという証拠にもなるのです。DVDになくてVHSにあるもの、それは「鑑賞者の足跡」だと感じました。面白いので是非見てみてください。