nao

フレンチアルプスで起きたことのnaoのレビュー・感想・評価

3.8

基本、長回しで撮られた映像。美しい自然とともにすべてを突き放すようなフレンチアルプス。滑車がワイヤーを通過する音
スキー場が定期的に行っている人工的に雪崩を起こすための爆発音。そして執拗に流れるヴィヴァルディの「夏」

これらの要素は、噛み合っていない様で絶妙に調和し、その場にいたくないと思わせる居た堪れなさや、なんとも気まずい空気のリアルさ、性別や立場によって取る行動など随所に見られる独特の緊張感をうまく演出していました

物語は、頼れる父親だったはずの男がいざ雪崩という危機が起きると、家族を置いて一人で逃げてしまいそこから家族の絆にヒビが入り、良き父親、良き夫という「仮面」を生命の危機によって強引に剥がされてしまった男の惨めな姿が描かれる

ただ、作品の所々に妙な違和感が付き纏う

これは父親の失敗を認めない往生際の悪さから来るものではなく、必要以上に夫に苦言を放ち続ける妻、憶測でものを語る知人カップルの女性など、自分本位な考えを振りかざす人間たちが見せる行動や言動
ここに居心地の悪さを感じてしまう

そして、ラストシーンで違和感の正体はハッキリと描かれる
ラスト、バスを直情的に止めろと言ったあとの妻の行動

母親を呼ぶ子供の声を無視して、自分ひとりでさっさとバスを降りる妻
何事もなく普通に曲がり道を下っていくいくバスを見つめながら「本当に危なかった」などとうそぶく姿、大事な子供を他人に抱かせる無責任ぶり

人は何に驚怖を感じるか、そのときの感じ方の違いは「定型化」できない
この作品は間違いを認めない男の醜さではなく、自分の考えが正しいと思い続ける"人間の醜さ"を描いた作品なんだと気付かされる

結局、人間は自分のことが一番大切な利己的な生き物であると言わんばかりの人物描写から、人の醜さや弱さをストレートに見せつけられる強烈な作品でした😅
nao

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