一人旅

フレンチアルプスで起きたことの一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
リューベン・オストルンド監督作。

とある一つの出来事をきっかけに信頼関係が崩れてゆく家族の行く末を見つめたドラマ。

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(17)でカンヌ映画祭パルムドールを獲得したスウェーデンの俊英:リューベン・オストルンド監督作品で、一つの家族を巡る心理&葛藤ドラマが描かれます。

休暇でフランスのスキーリゾートを訪れた夫婦&姉弟からなるスウェーデン人家族が、バルコニーのあるレストランで昼食を取っていた際に発生した人工雪崩の規模がやや大きかったため、迫り来る雪崩に身の危険を感じた夫が咄嗟の判断で妻や二人の子どもを置き去りにして自分だけ避難してしまったことから、それまで良好だった夫婦&家族関係に亀裂が入ってゆく様子を描いた“葛藤ドラマ”となっています。

頭の中では“自分よりまず家族の安全を確保しなければならない”―と分かっていても、いざ死の恐怖を体感すると自分の命を守るための行動に出てしまう―という、コントロールの利かない人間の(生存)本能が浮き彫りになった作品で、妻は自分達を見捨てて避難してしまった夫を事あるごとに非難するようになります。世間一般的に夫に求められる責務―“家族を守ること”をまるで果たせなかった夫に、雪崩が来ても子ども達の傍を離れなかった妻は激しい幻滅を抱き、夫婦の関係は信頼を失っていきます。妻の非難に対して当の夫は事実を否定することから入りますが、証拠の録画映像を友人達の前で流される―“公開処刑”もあって、夫の自尊心はやがて崩壊、あのとき家族を守れなかった自分自身を激しく恥じるに至るのです。

確かな愛情で結束しているはずの家族という共同体に、人間の本能が招いた“過ち”が波紋を広げていく様子を描いて、人間という生き物の根源的孤独と家族の理想&実像をシビアかつユーモアを交えて浮かび上がらせてゆく―普遍度の高い心理葛藤ドラマ。舞台となるスキーリゾートに漂う不穏な気配と寒々しい光景が先の見えない家族の不安心理を象徴しています。
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