ペジオ

ある優しき殺人者の記録のペジオのネタバレレビュー・内容・結末

ある優しき殺人者の記録(2014年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

POV映画の完成形なのでは?
様々なジャンルがPOV方式で撮られて若干の飽和状態になっている現在、敢えて原点ともいえるドキュメンタリーという設定に立ち返り、このPOVという玩具でおもいっきり遊んでやろうという姿勢がまず好きだ
えてしてそういう所から画期的で先進的なものは生まれると思う

ホラー、コメディ、SF、ラブストーリーとワンカットで切れ目無くジャンルが変容していく様は正に僕らが日々見ている世界そのものと言える

カメラを通して僕らは映画内世界を見る訳だが、そうすると自然とカメラを持った登場人物との距離感が縮まる
この映画はほとんどが一つの部屋で展開するので、本当に自分がその部屋でカメラを持って居合わせている様に思えるのだ
さすれば殺人者と同じ部屋にいるのだからなるほどこれは「ホラー」だ

ところが、日本人2人が出てきた辺りから雲行きが変わってくる
カメラの持ち手がコロコロ変わったり、日本人のブッ飛んだキャラクターもあったりで、急にカメラが「傍観者」ぶりだすのだ(カメラマンの普通っぷりと余りにもかけ離れたキャラクター)
「自分の不幸は悲劇だが、他人の不幸は喜劇だ」なんて言うが、そのカメラの距離感が「コメディ」の空気を作り出す

その後、まさかのカメラマンの死を経て(死体も映る)、殺人者がカメラを持つ
観客の感情移入の先が変わり我々は殺人者と同化する
目撃してきたこの地獄の様な惨劇が無意味なものにならないように、殺人者と同じように我々も奇跡を渇望する
そしてそれは起こる
ここから「SF」的な展開を我々は殺人者と共に体験する

ラストは「ラブストーリー」
これを見れたのは我々観客だけで、共にあの修羅場を過ごした登場人物は誰も見ていない
それは正に監督から我々だけに向けたプレゼントだ

視点とジャンルの蜜月っぷりがとても面白かった
ドキュメンタリーの設定でありながら、強烈にフィクションを感じさせる展開からも監督のフィクションに対する信頼を感じて、好感が持てた
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