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メビウスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

メビウス(2013年製作の映画)
3.5
 閑静な住宅街に佇む一軒の高級住宅、母親は階段にもたれかかりながら赤ワインのグラスを握り、父親はパター・ゴルフの練習をしている。思い思いの父母の一方で、高校生の息子は居た堪れない表情を浮かべながら、現代アートのオブジェの前で窮屈そうに背中を丸めている。父母子の3人の暮らしは最初から歪さを極める。父子別々に食パンを頬張る姿はどこか異常で、父子には会話がないようだ。その時父親の携帯に誰かからの着信が入り父は一瞬笑みを見せるが、次の瞬間、半狂乱に陥った母親が父親の携帯を取り上げて何やら絶叫する。母親はこの時から半狂乱に陥ったわけではなく、最初から狂っていたのだ。その証拠に母親のメイクはアイシャドーがどんよりしていて、口紅の赤も妙に腫れぼったい。ある日息子(ソ・ヨンジュ)は、自宅前に停められた車の中で父(チョ・ジェヒョン)と愛人の女(イ・ウヌ)のカー・セックスを目撃する。夫の不貞を妻が知らないはずもなく、母親は愛人が営む雑貨店の窓ガラスを石で叩き割る。

 この時、息子は父親の不貞を覗き見るように目撃し、母親はそんな父子関係を少し離れたところから覗き見る。今作は覗かれる者と覗き見る者の歪な関係性を繰り返し描いている。堪忍袋の緒が切れた母親は父親の性器を切り取ろうとするが、父親に抵抗され叶わない。次に母親は息子の部屋を覗き見るが自慰行為に耽る息子の姿を見て、あろうことか息子の性器を切り取る。慌てて父親が医者に駆け込むが、切り取られた性器は元には戻らない。父親は自分の不貞が元で息子が性器を切り取られたことをひたすら悔やみ、恥じる。息子と大した会話もなかった父親に出来ることはせいぜいインターネットでオルガズムについて調べるここと御仏の門前に縋ることしかない。息子は自分の性器を切り取った母親を憎みながらも、同時に求めていた。

 父子が同じ女に性的欲求を抱いたのは、彼女に聖母マリアの姿を重ね合わせていたからに他ならない。母親の憎むべき相手であるこの愛人は、母親がフレームの中から消えた瞬間立ち現れ、母親の帰還により存在感が希薄になるのだから。石を脚にこすりつけることで恍惚に達せんとした父子の歪な親子関係は母親の帰還で唐突に終わりを遂げる。ここでも母親はある意味どこへも逃げることが出来ない。幽閉され、限定された場所へと舞い戻る。母親は自分がお腹を痛めて産んだ子のあれを傷付けてしまったことをひたすら懺悔し、真に倫理観が歪められた愛欲関係を結ぶ。父親が勃起不全の息子に内緒で施した不具という名の不能は一種の贖罪的行為であったはずだが、皮肉にも息子は母親の子宮に戻ることで身体的不具を克服する。『サマリア』同様にここでも父性の無力さだけが強調される。
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