尿道流れ者

メビウスの尿道流れ者のレビュー・感想・評価

メビウス(2013年製作の映画)
3.0
珍道中。まさにその一言で、意味というよりも音に意味があり、チンという音が入る言葉なら何でも良いとも言えるけども。

父の不倫に悩む母が勢い余って息子の息子を切り落としたことから始まるおちんちんを巡る争い。
変態的とか問題作という触れ込みには少し負けるが、台詞のない映画としての間の使い方やカットの上手さなどはキム・ギドク作品とは思えない端正な出来栄えで面白かった。求めていたギドク特有の天然的なボケは薄く、残念ではあるが。

一人二役を演ずるイ・ウヌの魅力がとても大きく、恋の罪の冨樫真を連想するような二つの顔をみせる。旦那の不倫に悩み息子のおペニを切り取った母親と不倫をして不倫相手の息子にも手を出そうとする食品店の娘。両者は性への嫌悪と愛好を象徴するが、どちらも嫌悪と愛好が入り混じった感情を持っている。貞操と淫乱の振り子の両端として揺れる二人、しかしどちらもおなじ俎上にのせられていることからも裏返しのものとして描かれている。では、その二つを分けるものは何かというとおちんちんに対する接し方であって、閉鎖的な場合は貞操と評され、開放的なら淫乱となってしまう。
それは女の罪ではなくて、性欲を乱雑にぶつけてしまう男の罪であって、求められた女には求められる自らの価値に溺れる権利はある。性欲がもたらす悲劇的断絶と、その一方で失った二人がみせる牧歌的で平和な日々。面白いが確実に何かが足りない、これぞキム・ギドクという作品。